コラム

新型コロナが歴史に与える影響──EUの理想を実現させるか?

2020年08月28日(金)12時46分

もっとも、基金設立交渉が何の問題もなくスムーズに進んだわけではない。EU最大の課題である南欧と北欧の格差が今回の交渉でも最大の難所となった。北欧やオランダなど、財政が健全でコロナ危機による経済の打撃が小さい国々は、資金の多くを返済義務のある融資にすることや、環境・ITという戦略分野への重点投資を強く主張した。

一方、観光依存度が高くコロナ危機の影響を大きく受けているイタリアやスペインなど南欧諸国は補助金による資金提供を強く望んだ。当初案では、融資2500億ユーロ、補助金5000億ユーロと補助金の比率が高くなっていたが、北欧側が強く反発し、融資3600億ユーロ、補助金3900億ユーロと補助金の比率を下げる形で交渉がまとまった。

民主主義が不十分と判断された国に対して資金拠出を制限する仕組みについても、東欧諸国からの反発があったが、最終的には何とか合意に至っている。

さまざまな問題を内包しながらも、EUは世界に先駆けてポストコロナ社会に向けた戦略を打ち出すことに成功した。これまで足並みの乱ればかりが注目されていたが、EUはいよいよ欧州の理想に向けて動きだしたといえる。

<本誌2020年9月1日号掲載>

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プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

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