コラム

パラダイムシフトの前兆か? 自動車メーカーの業績が総崩れに

2019年05月21日(火)15時45分

こうした中、何とか現状を維持したのがトヨタ自動車である。同社の売上高は前年比2.9%増の30兆2256億円で、営業利益も2.8%増の2兆4675億円と何とかプラス成長を確保した(ちなみに日本企業で売上高が30兆円を突破したのはトヨタが初めてである)。

ただトヨタについても、主力の北米市場で苦戦しているのは同じで、北米の販売台数は274万台と前年をわずかに下回っている。もっともトヨタの場合、北米での販売奨励金を見直したことから収益性は改善しており、これによって営業利益の大幅な落ち込みを回避したが、販売台数がマイナスという現実は無視できない。

トヨタはこれまで出遅れ感が目立っていた中国市場を強化しており、これも業績を後押しした。中国を含むアジア市場での販売台数は9%ほど増加している。

今回の業績悪化は、嵐の前触れか?

業績が悪化した日産やホンダはもちろんのこと、それほど悪い決算ではなかったトヨタ経営陣からも楽観的な雰囲気は微塵も感じられない。その理由は、自動車業界に迫りつつある100年に1度のパラダイムシフトである。

今後、自動車業界は、EV(電気自動車)へのシフトやシェアリング・エコノミーの進展によって、産業構造が激変するとみられている。北米市場が飽和したことによって、今後の主力市場は中国になる可能性が高く、各社は中国市場への対応を進めている。ところが中国は国策としてEV化を進めており、中国市場を攻略するためには、EVシフトを加速しなければならない。

ガソリン車を中心とした時代においては、多数の部品メーカーを傘下に持ち、垂直統合システムを形成することにメリットがあったが、部品の汎用化とオープン化、IT化が進むEV時代においては、水平統合システムの方が圧倒的に有利になる。自動車メーカーの多くは垂直統合のシステムを採用しているので、抜本的なサプライチェーンの再構築が求められる。

水平分業の産業構造ではコストは極限まで下がる可能性が高く、自動車の販売価格は安くならざるを得ない。そうなると規模のメリットが極めて重要となり、上位グループに入れないメーカーは淘汰されるリスクが高まってくる。今後、業績がよくないメーカーは業界再編の格好のターゲットとなるだろう。今回の決算はやがて到来する大きな嵐の前触れと考えた方がよさそうだ。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

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