コラム

「焦げたアンパンマン」? 石破首相はワルになれ!

2024年10月08日(火)16時10分

クリスチャンの石破首相はいわゆる「タカ派国防族」ではない KIM KYUNG-HOONーPOOLーREUTERS

<旧派閥や党有力者の間の相克をあおって利用するくらいの策略家に徹すれば政権は長持ちする>

石破茂氏が首相になった。三白眼(さんぱくがん)で虚空を見つめ、国を守れと迫る「怖い人」から、今では「焦げたアンパンマン」と親しまれる(?)ようになった石破氏。長年冷や飯を食わされた疲労とともに準備不足がうかがえるが、これから調子を上げていくのだろう。

外交官だった筆者が石破氏を初めて見たのは、数十年前のモスクワ。彼は外遊のついでにロシアに寄ると、真っすぐある大統領最側近を訪ねた。あまり世界では知られていなかった人物だが、防衛問題、そして日ロ関係の今後を語るには最良の相手だった。筆者は、石破氏の目の付けどころの良さ、そして初対面の相手の懐に真っすぐ飛び込む切れの良さに感心したものだ。


それから20年余り。世界は変わった。石破氏も故・安倍元首相らと争って冷や飯を食い、自分の派閥も解散して過去の人となりかけた。そのためか、首相就任直後、報じられた発言は少し世間とズレている。

日米地位協定の改定、日本への核持ち込み是認など、どれも大切なことではある。だが、安倍政権時代に施行された安保関連法や、岸田政権が指示した防衛費5割増などをまず実行することが先決だ。アジア版NATOのような、たとえ実現してもコスパの低いアイデアは、有識者会合などで議論を整理してもらう扱いでいいだろう。

石破首相はもともとは農水族。実はクリスチャンで、「国家を守るために」うんぬんというタカ派国防族ではない。「国」を守るより、「人」を守ることを考える。アニメやアイドルも追いかける。共産主義、超国家主義、双方の出版物にも目を通している。左右両翼の過激派とは違う、リベラル(人間中心の、という意味)な防衛族だ。

総選挙後、「石破降ろし」が始まる

安倍元首相はタカ派として知られたが、彼が世論に評価されたのは、その経済政策の故である。今はアベノミクスの副作用が強くなり、続けることはもう適当でないが、ではどうするか。財務省、日銀などをうまく調整し、緊縮と拡張の間でうまい解を見つけてもらいたい。何でも首相1人で決める必要はなく(それは独裁だ)、全体に望ましい方向に導いていくのがリーダーとしての腕の見せどころではないか。

すぐに総選挙になる。自民党は、裏金議員に党公認を与えるかどうかで悩む。裏金議員が票を稼ぐ地域もあるだろうから、党本部にはジレンマだ。このあたり、小泉進次郎選対委員長でうまくさばけるのか?(*編集部注:石破首相は6日、裏金問題で処分を受けた議員らを自民党として総選挙で公認せず、問題があって処分を受けていない議員も比例代表との重複立候補は認めない方針を表明した)

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ発表 初の実戦使用

ワールド

国際刑事裁判所、イスラエル首相らに逮捕状 戦争犯罪

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数

ビジネス

米国は以前よりインフレに脆弱=リッチモンド連銀総裁
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 2
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 5
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story