コラム

日本に迫る政党の「ガラガラポン」

2024年06月28日(金)17時20分

スナク英首相(右)は捨て身の総選挙に打って出たが JONATHAN HORDLEーITVーREUTERS

<産業革命以来の中産階級が崩れつつある現代、政党の存在は岐路に立たされている>

6月19日、北朝鮮を訪問中のロシアのプーチン大統領は、金正恩(キム・ジョンウン)総書記と有事での協力を規定した条約に署名した。プーチンはその足でベトナムに飛ぶ。かねてから提唱している「ユーラシア集団安保」が実現に近づいた、と言うために。反米を唯一の錦の御旗に、中国も引きずり込む魂胆だ。ユーラシアはロシアにかき回され、「ガラガラポン」の様相を呈している。

しかし「反米」に全てを懸けてもいい国は、ロシア、北朝鮮以外はないだろう。口先だけで国々を糾合する子供じみた仲間づくりより、日本、そして「西側」諸国の人々の生活に響いてくるのは、国内の政党の「ガラガラポン」だ。イギリスでは保守党が捨て身の総選挙に打って出たが、大敗北を見越して同党議員365人のうち60人以上が既に不出馬を表明。数年間浪人して捲土重来を期すのだろう。

フランスも、6月9日の欧州議会選挙で極右政党が大勝ちし、マクロン大統領は与党の実力を見せてやろうとばかり、唐突な解散・総選挙という大ばくちに打って出た。ドイツでは以前から、現在は与党で老舗の社会民主党の退潮と極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の伸長が顕著だし、この100年来、民主・共和両党が死闘を続けてきたアメリカでも、選挙のたびに支持政党を替える者が増えている。その中で、ロバート・F・ケネディ元司法長官の次男ロバート・ケネディJr.が、第3の大統領候補として最近は10%以上の支持を得ている。

西側諸国では、産業革命でできた中産階級が、中国などへの工業生産の流出で摩耗。「資本家対労働者」の古典的対立構造が成り立たなくなり、政党地図も変わってきているのだ。

政党に固執する必要はあるか

ならば日本はどうなる? 岸田首相も総選挙の大ばくちに打って出るかもしれない。今なら、野党側は候補者もそろっていない。

自民党は、派閥という封建領主なしに、党首と幹事長が全体を差配する近代政党に脱皮するか、政治資金問題で痛めつけられた派閥の議員が支援業界などを「持ち逃げ」して新政党をつくるか、瀬戸際にある。

もう70年も権力の中心にある自民党が分裂するなんて、と思うかもしれないが、ソ連共産党は経済混乱で国民の信を失って、1991年に消滅している。戦前の日本では、政友会、民政党の二大政党支配に至るまで、さまざまな政党、徒党が離合集散を繰り返した。米民主党は独立時の民主共和党を起源とするが、南北戦争前に誕生した共和党に圧倒され、20世紀初頭まで万年野党に近かった。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米3月小売売上高1.4%増、約2年ぶり大幅増 関税

ワールド

19日の米・イラン核協議、開催地がローマに変更 イ

ビジネス

米3月の製造業生産0.3%上昇、伸び鈍化 関税措置

ビジネス

カナダ中銀、金利据え置き 米関税で深刻な景気後退の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気ではない」
  • 3
    【クイズ】世界で2番目に「話者の多い言語」は?
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    紅茶をこよなく愛するイギリス人の僕がティーバッグ…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    NASAが監視する直径150メートル超えの「潜在的に危険…
  • 9
    あまりの近さにネット唖然...ハイイログマを「超至近…
  • 10
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 1
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 2
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 3
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 4
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 5
    「ただ愛する男性と一緒にいたいだけ!」77歳になっ…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 7
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 8
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 9
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 10
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 9
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story