コラム

複合危機の時代を迎えた世界に船出する岸田政権の命運

2021年10月06日(水)11時20分

新総裁になった岸田(右)も菅も「安倍代貸し内閣」 CARL COURTーPOOLーREUTERS

<先進国はどこも内政が手詰まり常態。民主主義は「政策論争」では回らなくなっている>

岸田新内閣が10月4日、スタートした。今回の総裁交代劇は、政策によるものではない。新型コロナ禍でも選挙に勝てる「党の顔」の看板張り替え......のはずだった。

だが9月下旬、コロナ禍が下火になると自民党議員の危機感も静まる。「これなら劇薬の河野太郎氏を選挙の顔にしなくても大丈夫。それならば、派閥のボスの意向に沿って動いたほうがなにかと安全」というわけで、派閥は安泰。安倍・麻生・甘利の「3A」の隠然たる力は続く。岸田内閣は菅前政権に続いて、いわば「安倍代貸し内閣」2・0なのだ。

当面の焦点は、10月末に実施が予定されている衆議院選挙。今の情勢は、岸田自民党に有利だ。何よりも、菅前首相がコロナ禍で噴出した国民の不満を一身に吸い取った上で身を引いてくれた。首相交代で不満をガス抜きして、体制は安泰──これこそ民主主義の妙だ。

世論の関心はコロナ前の生活に一刻も早く戻ること、そしてコロナで中断した好況感の復活にある。岸田政権は財政・金融緩和一本やりのアベノミクス1・0とは手を切って、立憲民主党も打ち出している分配重視による経済刺激政策を採用することで、その期待に応えようとしている。

総裁選で負けた「小石河連合」は一匹狼の集まりだった。敗残の身を党内の冷たい風にさらすより、1976年の河野父・洋平氏の新自由クラブ、1993年の小沢一郎氏らによる新生党のように、新党を立ち上げて総選挙の台風の目になってもよさそうなものだが、世論は今そういうごたごたを支持する雰囲気ではなく、彼らに資金もない。

だから自民党は総選挙で好成績を収めることだろう。となれば、次の天王山は来夏の参院選ということになる。

自公の連立与党は今の139議席から17議席を失うと過半数割れとなり、悪夢の「ねじれ国会」がよみがえる。何も決まらず、政権ばかりころころ代わった2000年代後半が戻ってくる。

「だから日本はダメなのだ」と言うなかれ。今の時代、先進国はどこも内政が手詰まり状態にある。

民主・共和両党がデスマッチを続けるアメリカは言うに及ばず、ドイツも先の総選挙後の連立交渉でこれから数カ月は外の世界からおさらばだ。クアッドとかAUKUS(オーカス)とか聞き慣れない同盟もどきが林立し、その中で米英豪とフランスは潜水艦商談の取り合いで外交関係断絶の一歩手前。

北朝鮮は取り込み中の日本に付け込むかのように日本海に向けてミサイルを発射するし、韓国の裁判所は元「徴用工」関連訴訟で韓国内の日本企業の資産売却を許可する判決を出した。経済では、中国の中国恒大集団の30兆円超規模のデフォルト騒ぎや相次ぐ停電、極め付きは米国債のデフォルト騒ぎ。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story