コラム

新たな東西対立が始まる世界で日本に求められるもの

2021年09月08日(水)11時00分

米軍の機体に乗り込む市民たち(カブール) Isaiah Campbell/Handout via REUTERS

<「アフガン後」の国際情勢で中ロは準同盟関係を結びアメリカに対抗。日本外交が目指すべき方向性とは>

米軍のアフガニスタン撤退から1週間。中国、ロシアのメディアは「アメリカはアフガニスタンで負けて逃げ帰った。これでアメリカの衰退は決定的。アメリカをハブとする同盟体制も終わり」だと囃は やす。内心は、これからも混乱必至のアフガンを丸投げされて閉口しているのだが。

1975年の南ベトナム撤退時に比べると、アメリカ国内の党派対立がひどくなっているのは心配だが、別にアフガンで負けたわけではない。9・11同時多発テロの犯人である国際テロ組織アルカイダを掃討するという当初の目的はとうに達成している。

NATO諸国はアメリカが十分な事前協議なしに撤退時期を決めたことで怒っているが、彼らはもともと望んでアフガンに派兵したわけでもなく撤退自体は喜んでいるはずだ。アメリカは、自らは何もせず支援にただ乗りするだけのアフガン政府を放り出したが、NATO同盟国や日韓などは自前の力を持っており、アメリカとのギブ・アンド・テイクの関係は今後も成り立つ。

対米関係では「一人前の国」に折しも中国では学校で習近平(シー・チンピン)思想の学習を始め、ロシアは9月17日からの総選挙を前に反政府勢力を軒並み取り締まるなど保守化・権威主義化は度を越している。

中ロは自身の権力を守るために準同盟関係を結び、上海協力機構(SCO)にイランを引き込んでアメリカへの守りを固める。20カ国・地域首脳会議(G20サミット)はおそらく有名無実化し、新東西対立とも言える構造が世界に定着するだろう。日本はその中で一人前になった国としての対応を求められる。自分でできること・やるべきことは、アメリカのためというより自身のためにするということだ。

今回のアフガン撤退のドラマでは、欧州諸国の手際のよさが目立った。海外派兵の経験が薄いドイツでも、短期間で5000人以上を退避させた。日本は2015年の安保法制改正で海外の邦人救出のため自衛隊を派遣できるようになったが、いわば「丸腰」での派遣であり、攻撃されるリスクのある地域への派遣は初めてだった。

しかも今回は、アメリカの要請でアフガン人を14人も輸送したし、日本大使館の現地職員とその家族500人も輸送する計画だった。いずれも今までの小心なやり方に比べて素晴らしいことだが、安保関連法の条文では解釈に無理があるので、将来、これを改善する必要がある。それに、国外に連れ出すつもりでいる500人ものアフガン人の生活をどうするのか、その法制・人員・予算面での体制もない。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story