コラム

退潮する中国の一帯一路が元の姿で復活することはない

2021年03月25日(木)15時45分

中国事業は遅れ気味?(写真はパキスタンの港湾施設) ASIM HAFEEZーBLOOMBERG/GETTY IMAGES

<採算性を考えないプロジェクトで返済が遅延。政権交代で対中関係を見直す国も増えている>

昨年10月、アメリカのボストン大学が出したリポートは、中国の一帯一路の退潮を指摘した。

「一帯一路におけるインフラ投資の主役である国有の国家開発銀行と中国輸出入銀行による2019年の融資額は39億ドルで、ピークだった16年の750億ドルからは94%の減少」だという。

筆者は駐ウズベキスタン大使を辞した翌年の05年、北京のある研究所を訪問し、中央アジア専門家の話を聞こうとしたことがある。すると向こうは所長が自らお出まし、日本の(当時、日本は中央アジアで経済協力大国だった)対中央アジア政策を根掘り葉掘り聞いてきた。

何かたくらんでいるなと思っていたら2013年、習近平(シー・チンピン)国家主席は「シルクロード経済ベルト」構想を打ち上げ、2014年にそれを海洋方面と合体して「一帯一路」構想とする。この中国式大風呂敷に筆者は思ったものだ。そんなこと言って大丈夫なのか、ユーラシアには採算性の高い案件があまりないのに、と。

しかし当時中国は08年のリーマン危機を乗り切って自信満々。しかも、合計4兆元(約60兆円)の内需拡大が一段落し、閑古鳥の鳴いていた中国国内の素材・建設企業は「一帯一路での国外の事業」に活路を見いだす。政府各省は一帯一路の美名の下、予算・資金枠獲得競争に狂奔した。

一帯一路上にある途上諸国は、イタリアやギリシャに至るまでもろ手を挙げて大歓迎した。かつての日本のような、「見境なく貸してくれる金持ちのアジア人」がまた現れたのだ。

そうやって中国のカネ、そしてヒトはアフリカ、中南米にまで入り込み、融資総額は13~18年の5年間で900億ドルを超える。受益国の政治家・役人たちは、この資金で港湾施設やハイウエーを建設してもらって大威張り。一部は自分のポケットにも入れたことだろう。

だが、こうしたエゴの集積はもろい。案件の採算性や住民の利益を考えていないから、返済は滞るし、受益国の政権が交代すると前政権の手掛けた中国との案件はひっくり返される。

それに、中国国内の状況も変わった。4兆元の内需拡大策は諸方で不良債権を膨らませたから、債権回収が大きな関心事になったのである。

そういうわけで、「中央アジア経由で中国と欧州を結ぶ鉄道新線」「新疆からパキスタンを南下してインド洋と結ぶハイウエー」など、多くの構想は掛け声だけで進まない。ロシア経由の東西の鉄道での物流も、安価な海上輸送に歯が立たない。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story