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UAEはイスラエルから民主化弾圧のアプリ導入【イスラエル・UAE和平を読む(後編)】
イスラエルとUAEの国交正常化合意が発表された後、イスラエルの有力紙ハアレツ紙の8月25日の記事では「NSO社はイスラエル政府の奨励と役人の仲介を受けて、ペガサスをUAEのほか、バーレーン、オマーン、サウジアラビアに販売し、数億ドル(数百億円)を得ていた。そのソフトは反政府活動家を監視するために使われた」と書いている。
記事では「イスラエル政府の代表が、現地アラブ政府の治安情報関係者とNSO社の幹部のマーケティング会議の場に参加した。そのような会議はイスラエル国内でも行われた」とし、1契約で2億5000ドル(260億円)のものもあったという。
この記事では「イスラエル政府の代表」と書かれているが、会合に出てくるアラブの国の関係者が「政府の治安情報関係者」であれば、イスラエル側の代表も同じく治安情報関係者、つまりモサドの関係者であることが推測できる。
モサドが国交正常化前のUAEと手を組む理由
ハアレツ紙が8月中旬に掲載した特集記事には、UAEとイスラエルの間の事業について次のような記述がある。
「UAEには数十億ドル(数千億円)のプロジェクトがあり、ほとんどが情報、治安、サイバー兵器である。モサドや(イスラエルの対内諜報機関)シンベト、イスラエル軍の元関係者がコンサルタントや専門家という肩書で頻繁にUAEに来る」
「UAEに来るすべての国防専門家は、イスラエル国防省やモサドの承認や奨励を得ている。このことは国防関係の役人にとっては、湾岸諸国で何が起こっているかを知り、自分たちが退職した後、そこでビジネスができるという仕組みとなっている」
イスラエルにとって国交正常化前のUAEは公式には国交のないアラブの国であり、どのような技術が移転されるかは、モサドの監視下にあるということである。ハアレツ紙は「NSO社は政府だけを相手にしているが、民主国家であるか、湾岸諸国のような強権国家であるかは区別しない」としている。
つまり、契約を規制するのはイスラエル政府であるが、「アラブの春」後、自由な選挙によってムスリム同胞団がエジプトやチュニジアで政権を取ったことに、イスラエルが強い警戒感を持ったことは知られている。
パレスチナのガザを支配し、イスラエルと対抗するイスラム組織「ハマス」がムスリム同胞団の流れを汲む組織であり、同胞団がアラブ世界で勢力を広げれば、ハマスが強い後ろ盾を持つことになる。
実は2010年に、UAEのドバイのホテルでハマスの幹部が殺害され、それがモサドによる暗殺だとして、UAEとイスラエルの関係が急激に悪化したことがあった。イスラエルは暗殺について認めていないが、今回の国交正常化合意の後、ハアレツ紙の記事に次のようなくだりがあった。
「暗殺事件によってUAEとイスラエル系企業との多額の武器取引が取り消しになるなど関係は大いに緊張した。モサドはUAEでは同じようなことは二度と行わないと約束して、関係が修復された。暗殺から2年後にネタニヤフ首相は国連総会に出席するために訪れたニューヨークでUAEの指導者と会談した」
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