コラム

ユン大統領の釈放と、ますます揺らぐ韓国法秩序への信頼

2025年03月18日(火)17時50分

韓国固有の歴史的背景

事実、野党「共に民主党」は尹の釈放直後から司法の決定に即時抗告を行わなかった検察を声高に批判し、一部議員は検事総長の弾劾すら求めている。他方、与党「国民の力」所属議員は3月12日に尹の弾劾棄却を求め2回目の嘆願書を提出した。同党のトップである非常対策委員長の権寧世(クォン・ヨンセ)は、公式には司法の決定に圧力をかけるべきではない、という立場を表明している。だが、嘆願書の署名者は同党所属議員108人のうち82議員にも及んでいる。党執行部がこのような動きを容認しているのは明らかだ。

与野党により、検察や司法に圧力が加えられているにもかかわらず、韓国ではそれが大きな問題とはされていない。その理由はこの国では、検察や司法の決定に人々の意見が反映されるべきである、という考え方があるからである。


そこには韓国固有の歴史的背景がある。植民地支配と長い権威主義体制を経験した韓国では、法の遡及を積極的に認め、時代的要請に従って判例が書き換えられる事態が続いてきた。そこでは、検察や司法は時に過去の体制から受け継がれた遺物を墨守する存在であり、人々が積極的に声を上げ、その行動を是正させねばならないとの考え方があった。だからこそ、与野党の政治家は自らが「正しい」民意を代表している、との名目の下、堂々と彼らに圧力をかける。

プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


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