コラム

習近平、生き残りを懸けた2つの政治ゲーム

2015年11月25日(水)17時00分

 その一方で中国共産党による統治は、国民の声を全くに無視しているわけではない。民主的な国家であろうと権威主義的な国家であろうと、その政治権力が国民の要求を無視した政策決定を下すことは容易ではない。適切で、効果的な政策決定のためには、社会の要求を把握するための制度を備えておく必要がある。

 例えば、民主的な国家に限らず、権威主義的な国家であっても、選挙や議会、政党といった民主的な制度を統治者は設けている。権威主義的な国家の統治者が、わざわざそうした制度を設けるのは、「民主的な統治」を実施していることを、国内外にカモフラージュするためではない。政策決定のために必要な社会の要求を収集するために役に立つ制度だからである。中国共産党による一党支配においてもそうである。

 いま私たちが目にしている中国政治を描いてゆくということは、こうした力強さと脆弱さが相互に影響しあっている政治権力について、その形成と発展の過程、とくに、これまで支配が持続してきた要因を明らかにし、その行方を論じてゆくことである。

 では、政治権力は、その形成と発展の過程で、どの様な政治的課題に直面しているのだろうか。

政治指導者には支配のための同盟者が必要

 一般論として、権威主義体制において政治権力の頂点にたつ政治指導者は二つの政治的課題に直面しているといわる。一つには、彼と共に政権運営を担う政権内部の他のエリートからの挑戦を克服しなければならないという、「権力共有(power-sharing)」をめぐる問題である。政治指導者は、たった一人で政権を担当することはできない。支配のための同盟者が必要である。政治指導者は彼らの協力(忠誠)を得るために利益(安心)を提供しなければならず、同時に彼らの離反や挑戦を防止しなければならない。

 いま一つには、権力の外にある大衆との関係の調整という「社会的コントロール」をめぐる問題である。政治指導者は、常に大衆に包囲されているという脅威認識に苛まされている。政治指導者は、体制を持続させるために、この二つの課題をともに克服しなければならない。

 体制が持続しているということは、この二つの課題の克服に成功し続けていることである。もちろん習近平も、この二つの課題を克服するためのゲームをプレーしている。

 習近平はこのゲームに勝ち続けることができるのだろうか。本コラムが「リエンジニアリング(Reenginnering)」という言葉を用いるのは、現代中国の政治権力の中心にいる習近平中国共産党総書記が、現代中国というシステム、すなわち中国共産党による一党支配体制を生き続けさせるために、どの様な新たな取り組みをしようとしているのかを論じようとしているからである。

プロフィール

加茂具樹

慶應義塾大学 総合政策学部教授
1972年生まれ。博士(政策・メディア)。専門は現代中国政治、比較政治学。2015年より現職。国際大学グローバル・コミュニケーション・センター客員研究員を兼任。國立台湾師範大学政治学研究所訪問研究員、カリフォルニア大学バークレー校東アジア研究所中国研究センター訪問研究員、國立政治大学国際事務学院客員准教授を歴任。著書に『現代中国政治と人民代表大会』(単著、慶應義塾大学出版会)、『党国体制の現在―変容する社会と中国共産党の適応』(編著、慶應義塾大学出版会)、『中国 改革開放への転換: 「一九七八年」を越えて』(編著、慶應義塾大学出版会)、『北京コンセンサス:中国流が世界を動かす?』(共訳、岩波書店)ほか。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

再送-EQT、日本の不動産部門責任者にKJRM幹部

ビジネス

独プラント・設備受注、2月は前年比+8% 予想外の

ビジネス

イオン、米国産と国産のブレンド米を販売へ 10日ご

ワールド

中国、EU産ブランデーの反ダンピング調査を再延長
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story