コラム

もうアメリカにタダ乗りできない...トランプ2期目でさすがに欧州が目を覚ました

2025年03月19日(水)15時35分

トランプがどれほどひどく思えたとしても(勇敢な戦時指導者のゼレンスキーを「恩知らずの子供」のように扱ったことに愕然としたのは僕だけではないだろう)、以下の2点は際立っている。

1つ、ウクライナにとって、ついに何らかの和平プロセスが始まったということ。


イギリスや他の国々がウクライナの勝利を支持すると語るのは結構だが、それがどう実現できるのかは見通せない。プーチン政権の突然の崩壊など、何らかの神の思し召しを期待して、ウクライナ人がいつまでも戦い、死んでいくこともやむなしと思っているかのようだ。

理論的にはプーチン政権崩壊も起こり得るが、ロシアが迅速かつ決定的な勝利を収められずに屈辱を味わった後にも、政権崩壊は起こらなかった。だから今それを期待することは、まともな「戦略」とは言い難い。

2つ目に、欧州の指導者たちが防衛費に関して重い腰を上げだしたのはごく最近になってからだ。2025年のトランプ大統領就任は、ウクライナ侵攻以上に大きな影響を及ぼした。イギリスは最近、2年以内に防衛費をGDPの2.5%まで急速に引き上げると誓った。

NATO加盟国の長年の「目標」である2%に届くのですら10年以上を費やしてきた他の国々も、今や方向転換しつつある。ポーランドとバルト諸国(ラトビア、リトアニア、エストニア)は例外であり、ロシアが周囲の主権国家を反抗的な従属国とみなしているという現実の危険を熟知している。例えば、ポーランドの防衛費支出は4.7%まで上昇している。

だが、他のもっと裕福な国々は責任逃れを続け、イタリア、スペイン、ベルギーは頑固に1.5%未満を維持している。

ヨーロッパの各国首脳らは、トランプが1期目に彼らを名指しで非難したことにムッとした。「なぜ29カ国のうち5カ国しか約束を果たしていないのか?2025年までの目標などと言わず、今すぐにGDPの2%を支払わなければならない」と、2018年に彼はツイートした。

欧州の反応は、「同盟国にそんな話をするのはなんて失礼な!」という論調だった。さて、今や彼らは行動を起こさなければならず、そのうえ2%ではもはや不十分だろう。

20250325issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年3月25日号(3月18日発売)は「2025年の大谷翔平」特集。初の東京ドーム開幕戦に臨むドジャース。「二刀流」復帰イヤーの大谷をアメリカはこう見る

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米ウクライナ首脳が電話会談、トランプ氏「順調に進展

ワールド

ロシアとウクライナが捕虜175人ずつ交換、米ロ電話

ワールド

プーチン氏、制圧ウクライナ地域「ロシア領承認」を米

ワールド

ゼレンスキー氏「ロシアは言行不一致」、米ロ会談後も
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平
特集:2025年の大谷翔平
2025年3月25日号(3/18発売)

連覇を目指し、初の東京ドーム開幕戦に臨むドジャース。「二刀流」復帰の大谷とチームをアメリカはこうみる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研究】
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
  • 5
    ローマ人は「鉛汚染」でIQを低下させてしまった...考…
  • 6
    失墜テスラにダブルパンチ...販売不振に続く「保険料…
  • 7
    DEFENDERの日本縦断旅がついに最終章! 本土最南端へ…
  • 8
    「気づいたら仰向けに倒れてた...」これが音響兵器「…
  • 9
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 10
    【クイズ】LGBTQ+の中で「最も多い」アイデンティテ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研究】
  • 4
    「若者は使えない」「社会人はムリ」...アメリカでZ…
  • 5
    失墜テスラにダブルパンチ...販売不振に続く「保険料…
  • 6
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「石油」の消費量が多い国はどこ…
  • 8
    自分を追い抜いた選手の頭を「バトンで殴打」...起訴…
  • 9
    白米のほうが玄米よりも健康的だった...「毒素」と「…
  • 10
    【クイズ】ウランよりも安全...次世代原子炉に期待の…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 7
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story