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イギリスを悩ます「安楽死」法の重さ
テレビジャーナリストで末期患者でもあるエスター・ランツェンなど、何人かの著名人がこの法律に賛成の声を上げている。当然のことながら、避け難く苦痛が伴う最期に直面した時に、安楽に人生を終える選択肢を持ちたいと切望する人々に対しては、同情以外感じないだろう。
それに対し、危ぶむ側の声はあまり大きくない。理由の1つは、プロライフ(生命尊重)を主導するであろうカトリック教会と英国国教会の道徳的権威が、ここ数十年の虐待スキャンダルで失墜しているからだ。
代わりに、たとえば娘を幼少期に亡くしたゴードン・ブラウン元首相が、必要なのはより良い終末期医療のほうだと主張しているように、プロライフ論をリードする役目は個人に委ねられてきた。
この法案を支持する人々は、決して無理強いなど発生しない世界一厳格な仕組みができていると主張している。にもかかわらず、高齢者や重度障害者に対し、苦しむ家族や逼迫した国民保健サービス(NHS)の「お荷物になる」のをやめるべきではないかと、さりげなく何度もプレッシャーをかけることになるのではないかとの懸念の声もある。
鬱々とした日本映画『PLAN75』は、その行く末を極度のディストピア視点で探求した。この映画では、国家が文字どおり、人が死ぬためにカネを払う。
提起するのは重要な問題だ――高齢者は自分を社会の「コスト」のように感じ、自らを犠牲にするよう仕向けられているのだろうか?
イギリスの高齢者は、築いてきた資産を介護施設で過ごす晩年で使い果たすことも多く、孫たちに何も残してやれないと大っぴらに嘆くこともある。
「死のマニュアル」採用の過去
善意のつもりがいかにひどい誤りになり得るか、イギリスは経験をもとに熟考すべきだろう。
1990年代後半にイギリスでは、終末期患者にきちんと平準化したケアを行うため「リバプール・ケア・パスウェイ」という看取りケアプログラムが策定された。リバプールを皮切りに、2009年から全国のNHS病院で採用。ところが官僚的で柔軟性に欠ける運用だったため、2013年までには下火になった。
終末期患者だけでなく、末期症状とみなされた患者は、食べ物を与えられないなどして死へと追いやられたようだ。患者個々のニーズや状況はほとんど、あるいは全く言及されなかった。
あからさまな悪意こそなかったものの、医療者は「パスウェイ」マニュアルを忠実に守り、「死への道」と見まごうものを作ったのだ。
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