コラム

コロナ予防でひどい風邪が流行し、クリスマスは9月に始まった

2021年10月21日(木)16時30分

現在のイギリスの「ガソリン不足」は、実のところ供給の問題だ。ガソリンを運搬するための大型トラック運転手が不足している。ブレグジット(イギリスのEU離脱)で「残留支持派」だった人々は、ブレグジットが大惨事を招くことがついに「証明された」と得意顔だ。数多くの欧州出身のトラック運転手がブレグジット以降にイギリスを離れたのは、明らかに原因の1つといえる(唯一の原因ではないが)。その一方で、ブレグジットよりもさかのぼって原因を挙げることもできる。20年前、当時の首相だったトニー・ブレアは、イギリスを「国民総大卒」の国に変えた。今や、熟練の労働者の数は圧倒的に不足しているのに、「社会学の学位を持つバリスタ」はあふれるほどいる。

僕は気に入らないのだが、ブレアの長男ユアンが1億6000万ポンド(約240億円)の資産を保有しているとの記事を最近読んだ。この資産のほぼ全てが、自身が起業したテック企業から得られたもので、この企業は職人見習いの仲介会社数社とつながりがある。

彼は市場のギャップを見て取った──若者は、何万ポンドも借金して無価値な大学学位を得るよりも、良いキャリアにつながるであろう価値あるスキルを学ぼうとするのではないか。イギリス人の半分が大学に行くことになるという決定、そしてそうした大卒者みんなに大卒にふさわしい内容と給料の職業が確保できるはずだという狂った想定、さらには水道配管工やトラック運転手が慢性的に不足するといったマイナス面は起きるはずがないという思い込み......父ブレアが主導したこれらの結果によってユアンの財産が築かれたというのは、ひどく皮肉な話だ。

9月なのにクリスマスフード

今年の9月半ばは、イギリスの基準で言えば本当に暖かかった。真夏のようだった。そんななか、ミンスパイとピッグス・イン・ブランケット(ソーセージのベーコン包み)がさまざまな店の棚に並んでいるのを見て僕は驚いた。これらはクリスマスの食べ物だからだ。3カ月も先、クリスマスの時だけに食べられるもの。多くのクリスマスフードは「体を暖めるメニュー」だから、冬らしい季節にこそふさわしい。日焼け止めを塗るような日にミンスパイを食べるというアイデアは、なんとも奇妙だった。ピクニックの食べ物とは対極にあるはずなのだ。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ウクライナ制圧のクルスク州、ロシアが40%を奪還=

ビジネス

ゴールドマンのファンド、9億ドル損失へ 欧州電池破

ワールド

不法移民送還での軍動員、共和上院議員が反対 トラン

ワールド

ウクライナ大統領、防空強化の必要性訴え ロ新型中距
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 5
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    2人きりの部屋で「あそこに怖い男の子がいる」と訴え…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story