コラム

イギリス人から見たトランプ特別治療の「上級国民度」

2020年10月14日(水)16時30分

本当の問題は、ある国のリーダーが他の国のリーダーに比べてどう治療されるのか、ということではない。自国の国民に比べて、リーダーがどんな治療を受けるのか、という点だ。僕たちは心のどこかで、ある程度の優先権を持つ人がいることを認めてしまっていると思う。僕が以前に調子が悪かったとき70分待合室で待たされたのと同じように、ボリス・ジョンソンが一般開業医の診察待ちで長い行列に並び、その間に政府の業務が滞るようなことがあるとしたら、ばかげているだろう。でも、その格差が甚大になり、リーダーが一般国民とはかけ離れた世界に住むようになれば、僕たちは抵抗する。

何百万ものアメリカ人が無保険か、最低限の医療にすらアクセスが限られているような状況だけに、トランプの治療は軋轢を生む。実際、マイケル・ムーアが『シッコ』で暴いたように、医療保険に入っているアメリカ人でも多くの人々が、深刻で命の危険がある症状でも必要な医療を受けられないことがあるのだ。

アメリカのそれは不完全で腹立たしい医療システムであり、イギリスとアメリカ両国で暮らした僕が体験した、「生活の質」をめぐる最大の違いだ。イギリスでは、失業者であろうと億万長者であろうと、全ての国民はNHSにアクセスする。僕たちの医療保険制度は完ぺきではないが、イギリス国民全員が頼りにできるものなのだ。

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プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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