円安誘導をもうアメリカは許さない
今回の米為替報告書の指摘を受けて、日本側は「我々の対応は制限されない」とドル買い・円売り介入も辞さない構えとのこと。国内向けには強気のコメントができても、果たして同じことを対外的にも発信できるのか?という部分はさておき、実際のドル買い・円売り介入のハードルの高さを考えてみましょう。
①②はすでにオーバーしていますので、③の設定より、今後GDP2%以上の為替介入が実施されれば日本は米国の制裁措置の対象となります。具体的には実質GDPから換算するなら10.6兆円、名目GDPなら10.0兆円相当が米国から制裁措置を発動されないためのドル買い・円売り介入の限度額となります。
10兆円の為替介入が果たして効果があるのか。2011年、東日本大震災の後、1ドル75円を見た当時、民主党政権下で為替介入が実施されましたが、その年のドル買い・円売り介入の総額は14.3兆円でした。同規模の介入を今実施すれば「為替操作国」と認定されてしまうわけです。それでも当時はこれを機に、為替レートは反転してドル高円安方向に進んだのだから、それなりに効果があったのではないか?と結論づけるのは尚早です。この時は日本の震災という異例事態を受けて、直後にG7から「日本における悲劇的な出来事に関連した円相場の最近の動きへの対応として、日本当局からの要請に基づき、米国、英国、カナダ当局、および欧州中央銀行は、日本とともに為替市場における協調介入に参加する」との緊急合意があったのです。
現状では各国どころか、米国から合意を取るのは難しいだけに、協調介入の可能性は震災当時のような余程の激しい値動きや円高水準でなければ現実的ではありません。ここ20年ほどの協調介入と言えば1995年の円売り介入、1998年の円買い介入、2000年のユーロ買い介入ですが、為替市場でトレーディングをしていた経験則から申し上げると、各国との協調介入でないと効果が期待できず、日本だけの単独介入となれば、その効果については懐疑的にならざるをえません。つまり、日本が手持ちの10兆円枠をギリギリ使ったとしても、単独介入である限り円安となる効果は極めて限定的で、効果がほとんど期待できない上に、しかも「為替操作国」と同盟国から認定されるリスクを抱えながら実施する介入に意味があるのか?という疑問がわいてきます。そして、そもそも日本経済全体にとって円安の効果はいかばかりなのか、真摯に分析・検証する必要があるはずです。
ちなみに2011年の協調介入での各当局の介入額ですが、米国10.00億ドル(1ドル当時の80円換算で800億円)、カナダ1.24億ドル(99億円)、英国1.25億ドル(100億円)と公表しています。ECBは金額の公表はしていませんが、ECBの外貨準備の変動額から4.20億ドル(336億円)相当ではないかとの試算がされています。斯様に日本以外の各国の介入実施額は極めて少ないのです。大量の資金を投入して力技で為替市場を反転させるというより(為替市場の規模を考えれば、各国当局が総力を結集しても土台無理)、ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)に則って、逸脱した為替レートはアナウンスメント効果を狙って修正する作業に徹する、ということになります。
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