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なぜEUは中国に厳しくなったのか【後編】3つのポイント=バルト3国、中露の違い、ボレル外相
確かに、どう出てくるかわからない怖さがロシアにはあるが、ここでより重要なのは「同等性」という発言のほうだと思う。
つまり、目の戦いなら目だけ、歯の戦いなら歯だけ、それ以上のことはして来ないという意味だと言えるだろう(これは古代バビロニアのハムラビ法典の記述だが、これが本来の意味でもある)。
プーチン大統領は、民主主義的な仮面をかぶることを知っている。
クリミア併合の時は、クリミアで住民投票を行い、「住民の意志でロシアに所属した」という形となった。
住民投票の結果の正当性には批判が絶えないが、それでも「ロシア帰属」という住民の意志がまったくのでっちあげとは言えない土壌が、クリミア半島にはある。
また毎年恒例で、「プーチンとの直接対話」という生放送番組に登場して、国民の質問に答えている。事前に寄せられたり、スタジオの観客や中継で結ばれた各地の人たちから聞かれたりするという形式だ。質問は100には届かないものの大変多く、4時間ぶっ続けで答えたこともあるという。
それに、ロシアで体制批判のデモは行えない訳ではないし、不完全とはいえ選挙も行われている。
筆者は常々「プーチン大統領は、ヨーロッパ人でいたいのだ」と感じてきた。しかし最近は強権化と反動化が強まり、それが欧州を不安に陥れている(プーチンも年取ったのかもしれない)。
一方、中国はどうだろうか。
EUは、ウイグル人の大規模な弾圧に関与した新疆ウイグル自治区の中国政府関係者4名に制裁を加えた。ところが北京はその報復として、10人のヨーロッパ人と、4つの機関を制裁するという2倍、3倍もの仕返しに出てきた。
10人のうち5人は欧州議員、あとの5人は、2020年6月に設立された「対中政策に関する列国議会連盟」(IPAC:Inter-Parliamentary Alliance on China)のメンバーである。これは、北米・欧州・オセアニア・日本・ウガンダの19カ国の議員が参加している(日本からは中谷元議員と、山尾志桜里議員が参加)。
また、フランスの財団の研究者の一人、つまり一般市民が、ツイッターで中国体制を批判した。すると、なんと中国大使館が乗り出してきて「小さなパンチ」とか「狂ったハイエナ」などと侮辱してきた。
外交官としてあるまじき行為だったために、フランスの外交責任者が勤務時間中に「外交ルールを思い出してもらう」ために、在仏中国大使を呼んだ。しかしスケジュールを理由にすぐには応じなかった。と今度は、北京のEU大使が真夜中にいきなり呼び出された。
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