コラム

なぜEUは中国に厳しくなったのか【後編】3つのポイント=バルト3国、中露の違い、ボレル外相

2021年07月09日(金)20時49分

EU内で、バルト3国だけで「マグニツキー法を」と望むより、北欧理事会の中心的メンバーであるスウェーデンとデンマークと一緒のほうが、ずっと強い。彼らが一致協力してオランダを支持したから、一定の力がうまれたのだろう

こうしてEUで昨年12月、EU版マグニツキー法である法律「グローバル人権制裁制度」が誕生した。

ただ、最終的には合意したものの、躊躇する国もあったので、ロシアを刺激する「マグニツキー」という名前は、配慮して法律につかなかったのだったという(欧州議会は望んでいたのだが)。

このように、EU内で同志を募って一致協力してグループをつくり、推し進めてEUの法律を制定していくのは、よくあることである。

地政学的には、バルト3国と日本で、ロシアを挟むことができる。ロシアは今のところ日本にとって、際立った軍事的脅威はないが、アメリカがからんで不穏な空気はすでに一部生じている。今後中国と連携してどのような行動をとってくるのか、警戒が必要だ。

バルト3国と日本の協力関係は、ロシアにとって牽制になり、中国関係にも影響を及ぼす可能性がある。

茂木氏は、今後策定されるEUのインド太平洋戦略について「日本、EU、バルト3国が共有する方針がしっかり反映されるだろう」と述べた。

思えば日露戦争の際、ポーランドが日本に協力を申し出たことがあった。理由は上記と同じだろう。それを日本は断った。1世紀を経て、日本の国際感覚も飛躍的に向上したものだ。

2、中国とロシアの違い

さて、ル・モンドの論説委員であるシルヴィ・カウフマン氏が、大変面白いことを書いている


EU27カ国は進んで制裁を行っているが、力の試練にはほとんど慣れていない。ジョゼップ・ボレル外務・安全保障政策上級代表(以下、ボレル外相)は常々「力の言語を学べ」と言っている。明らかに学習には時間がかかるだろう。

EUは制裁を複数の国に課したが、顔面に棒を打ちつけられるのには慣れていない。


ロシアに関しては、ある程度までは報復措置の対応を知っている。目には目を、歯には歯を、である。

EUに対して、ロシアが同等性なのに対して、中国は激化する。EUは、中国はロシアとは違うと発見しているところである、

──というのである。

それでは、ロシアと中国はどう違うのか。

まずロシアである。

ロシアがEUに対して「目には目を、歯には歯を」だと聞くと、なんだかすさまじいような印象を与える。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。個人ページは「欧州とEU そしてこの世界のものがたり」異文明の出会い、平等と自由、グローバル化と日本の国際化がテーマ。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使インタビュー記事も担当(〜18年)。ヤフーオーサー・個人・エキスパート(2017〜2025年3月)。編著『ニッポンの評判 世界17カ国レポート』新潮社、欧州の章編著『世界で広がる脱原発』宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省庁の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早稲田大学卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=反発、アマゾンの見通し好感 WBDが

ビジネス

米FRBタカ派幹部、利下げに異議 FRB内の慎重論

ワールド

カナダはヘビー級国家、オンタリオ州首相 ブルージェ

ビジネス

NY外為市場=ドル/円小動き、日米の金融政策にらみ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    必要な証拠の95%を確保していたのに...中国のスパイ…
  • 7
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 8
    海に響き渡る轟音...「5000頭のアレ」が一斉に大移動…
  • 9
    【ロシア】本当に「時代遅れの兵器」か?「冷戦の亡…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story