コラム

なぜEUは中国に厳しくなったのか【後編】3つのポイント=バルト3国、中露の違い、ボレル外相

2021年07月09日(金)20時49分
ボレルEU外相

中国との投資協定を破棄したEUは今、EU版のインド太平洋戦略を練っている(写真は、力も解する人権派として注目されるボレルEU外相) Jean-Francois Badias/REUTERS

*「なぜEUは中国に厳しくなったのか【前編】米マグニツキー法とロシアとの関係」はこちらから

昨年度末に慌ただしく合意に至った投資協定は、5月、欧州議会の議決により凍結された。

ウイグル人権問題で、EUが厳しい制裁をくだすことになったのは、昨年末に成立した新しい法律「グローバル人権制裁制度」を使ってのものだ。

これは個人や組織に対して制裁を加えることを法整備化したもので、アメリカでオバマ時代に制定されたマグニツキー法がモデルとなっている。

前編では、EUと中国・ロシアとの関係を詳しく説明した。

なぜEUは中国に厳しくなったのか【前編】米マグニツキー法とロシアとの関係

後編の今回は、なぜEUの中国への態度が厳しくなったのか、見るべき3つのポイントを紹介したい。

1、北欧の動きと中国

7月3日、茂木外相は、バルト3国歴訪を無事に終了した。日本の外相として初となった訪問だった。

日本が提唱する「自由で開かれたインド太平洋」構想の実現に向けた協力や、2国間関係の強化で、両者は一致したという。日本は、東欧で積極的に経済協力を進める中国を念頭に、各国と連携拡大を図ったのだった

この訪問は、欧州で起きていることを実によく見極めているものだと思う。

EUは、9月までに中国の海洋進出などを念頭においた「インド太平洋戦略」を策定する方針だ。茂木外相は、バルト3国が「EUの中で建設的な役割を果たしてもらえる手応えを感じた」と強調した

バルト3国(北からエストニア・ラトビア・リトアニア)は日本人にはあまり馴染みがないが、どのようなことが欧州で起きているのだろうか。

EU版の「マグニツキー法」を制定するまで

前編で説明したように、オランダ政府が「EUにもアメリカのマグニツキー法に相当する法律を」とイニシアチブをとった。しかし、当初は躊躇する加盟国もあったという。なぜそれでも実現したのだろうか。

北欧の国々が、強力にオランダを援護射撃したのだった

特にデンマークとスウェーデンは熱心で、もしEUでマグニツキー法が実現しないのなら、「北欧理事会」の8者で独自の制裁メカニズムをつくることさえ示唆したのだという。

「北欧理事会」とは、EUとは別の組織である。加盟国は5カ国、デンマーク、スウェーデン、フィンランド(EU加盟国)、アイスランドとノルウェー(非EU加盟国)からなる。ここに自治地域が3つ(グリーンランド、フェロー諸島、オーランド諸島)が準加盟となっていて、合計8者となっている。

そして、バルト3国はオブザーバーとして参加している。

imai20212070812201.jpg
北欧理事会のメンバー。紺が正式加盟国。青が準加盟地域。その他バルト3国など。Wikipediaの地図をもとに筆者が作成


デンマークとスウェーデンが熱心だったのは、同じくEU加盟国の仲間であるバルト3国の要請があったからと言われている。

バルト3国は元ソ連の国で、ロシアに対する警戒感が強いためだろう、すでにマグニツキー法に相当する法律をもっている。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出合い、EUが変えゆく世界、平等と自由。社会・文化・国際関係等を中心に執筆。ソルボンヌ大学(Paris 3)大学院国際関係・ヨーロッパ研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。編著に「ニッポンの評判 世界17カ国最新レポート」(新潮社)、欧州の章編著に「世界が感嘆する日本人~海外メディアが報じた大震災後のニッポン」「世界で広がる脱原発」(宝島社)、連載「マリアンヌ時評」(フランス・ニュースダイジェスト)等。フランス政府組織で通訳。早稲田大学哲学科卒。出版社の編集者出身。 仏英語翻訳。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRB当局者、金利巡り慎重姿勢 関税措置で物価上振

ビジネス

再送-インタビュー:トランプ関税、国内企業に痛手な

ワールド

原油先物5週間ぶり高値、トランプ氏のロシア・イラン

ビジネス

トランプ関税で目先景気後退入り想定せず=IMF専務
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story