コラム

アストラゼネカ製コロナワクチン、欧州15カ国以上で使用を一時中止。火付け役はEUというより北欧の国々

2021年03月17日(水)10時35分

欧州医薬品庁(EMA)によると、問題のバッチ(セット)には100万回分が含まれており、EU17カ国で配布されたという。

安全なのか否か、揺れる国々と組織

このころから、フランスではほぼ毎日のように、アストラゼネカ社のワクチン問題を、トップニュースの扱いで報じていた。もう同社製のワクチン投与は始まっているのだ。これは大問題だ。

因果関係は証明されていないこと、欧州医薬品庁は「安全だ」と認めていること、具体的に症状が出たのは◎人中◎人など、具体的な数字をあげて、説得につとめていた。

このような事態になるもっと前から、同社製のワクチンは、フランスやドイツ等で、65歳以上の投与をしない方向になったり許可したり、揺れていたのだが。

薬剤疫学教授であるスティーブン・エバンス氏(London School of Hygiene & Tropical Medicine)はロイター通信に対し、「これはヨーロッパでの、いくつかの孤立した報告に基づく超慎重なアプローチである」と述べた。

「ワクチンの副作用が疑われる自発的な報告の問題点は、因果関係と偶然を区別することが非常に難しいことです」と述べ、コロナウイルスによる病は、血液凝固と非常に強く関連していると付け加えていた。

14日(日)にはアイルランドが投与を中止した。さらにイタリアでは、前日にワクチンを接種した教師が死亡したことを受けて、日曜日にワクチン接種を大変短い間停止した後、イタリアのピエモンテ州(北西部)ではワクチン接種の再開を決定した。しかし、予防措置として同社のワクチンを除外した。

イタリア医薬品庁のトップ、ジョルジオ・パル氏は、同社のワクチンが「いかなるリスクもない」と断言し、「発生するリスクよりもメリットが大きい」と考え、「感情論」を乗り越えて「科学的データ」に基づくことを呼びかけた。

このように次々と一時中止の国が続いたことで、アストラゼネカ社は14日(日)に声明を発表した。

それによると、「同社のワクチンを、EUおよび英国で接種した1700万人以上の利用可能なすべての安全性データを慎重に調べた」結果、特定の年齢、性別、バッチまたは国のグループにおいて、肺塞栓症、深部静脈血栓症(DVT)または血小板減少症のリスクが増加したという証拠は得られなかった」と述べている。

一方、EUおよび英国では、ワクチンを接種した人に、血栓症(DVT)や肺塞栓症が報告されているが、「この規模と、類似した規模の一般の集団で自然に発生するよりもはるかに少ない」としていた。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出合い、EUが変えゆく世界、平等と自由。社会・文化・国際関係等を中心に執筆。ソルボンヌ大学(Paris 3)大学院国際関係・ヨーロッパ研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。編著に「ニッポンの評判 世界17カ国最新レポート」(新潮社)、欧州の章編著に「世界が感嘆する日本人~海外メディアが報じた大震災後のニッポン」「世界で広がる脱原発」(宝島社)、連載「マリアンヌ時評」(フランス・ニュースダイジェスト)等。フランス政府組織で通訳。早稲田大学哲学科卒。出版社の編集者出身。 仏英語翻訳。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story