コラム

イナゴの大群、新たに大発生の予兆。国連「資金がない。駆除できなくなる」とSOS

2021年01月27日(水)19時47分

イナゴの大群が飛び回る牧草地を歩く痩せたラクダ(ソマリアのモガディシュ郊外、2020年11月)  Feisal Omar-REUTERS

「イナゴを駆除するための資金が枯渇しています。このままでは退治活動が停止してしまうかもしれません」──1月20日、このように国連食糧農業機関(FAO、以下「国連食農機関」)は警告した。

現在、28機の飛行機が、上空をパトロールしている。イナゴ(バッタ)の大群を発見して、殺虫剤を散布するためだ。

もし追加の資金がなければ、早ければ3月に、この活動を停止せざるをえないというのだ。バーチャル会議で、国連食農機関がパートナーに伝えた。

国連機関は、エチオピア、ケニア、ソマリア、スーダンでの活動を継続するために3800万ドル(約39億5000万円)を求めている。

「惨状の別の波が飛び交うなか、東アフリカのイナゴの <空軍>は、地上に降り立つ可能性があります」とある。「惨状の別の波」とはコロナ禍のことだろうか。


史上最大級のサイクロンによる大打撃

それでは現在、イナゴの大群はどのような様子になっているのだろうか。

昨年の11月、巨大サイクロン「Gati」が大雨をもたらした。これはソマリアに上陸した記録上では、史上最強のものだった。推定で1万頭の動物が犠牲になり、9人が亡くなったという。

さらに最悪なことに、この雨のせいで、エチオピア東部とソマリア中部で、新たなイナゴの群れが形成される条件をつくってしまった。

cycklon0126.jpg
インド洋の北に発生し「アフリカの角(つの)」と呼ばれるソマリアに上陸しようとするサイクロン、Gati。2020年11月22日の写真(Wikipediaより)


イナゴは専門家の予測通り、水が干上がると、ケニア北部とエチオピア南部に南下し始めた。

国連食農機関のイナゴ上級予報官であるキース・クレスマン氏は語る。

「私たちは10月に、このことを予測していました。両国に12月中旬以降に注意が必要だと早期警報を出していましたが、それが実際に起こってしまったのです」

「それ以来、ほぼ毎日のようにイナゴが到着しています」

今はまだ若いが、今後数ヶ月のうちに成熟し、繁殖するだろう。 国連食農機関は、ケニアとエチオピア南部に降る季節的な雨と、植物が生え始める時期にそって、4月初旬に新しい世代が出現すると予想している。

砂漠のイナゴは、さらに北のアデン湾のソマリアの海岸線でも繁殖しており、2月下旬には新たな群れが形成され始める可能性が高い。

「これは大変心配なことです。だから、防除作業を中断させないことが、極めて重要なのです」とクレスマン氏は述べている。

map0126.jpg
2021年1月18−21日の様子。黄丸は成虫の群、赤丸は未成虫の群、白は未発見の地域(FAOサイトより)。


惨事は予測されていたのに

この危機の発端は、2018年だ。サイクロンがイエメン沿岸を襲った時である。

半砂漠地帯で大雨が降り、好条件が満たされると、爆発的な増殖を引き起こす。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出合い、EUが変えゆく世界、平等と自由。社会・文化・国際関係等を中心に執筆。ソルボンヌ大学(Paris 3)大学院国際関係・ヨーロッパ研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。編著に「ニッポンの評判 世界17カ国最新レポート」(新潮社)、欧州の章編著に「世界が感嘆する日本人~海外メディアが報じた大震災後のニッポン」「世界で広がる脱原発」(宝島社)、連載「マリアンヌ時評」(フランス・ニュースダイジェスト)等。フランス政府組織で通訳。早稲田大学哲学科卒。出版社の編集者出身。 仏英語翻訳。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ミャンマー地震の死者1000人超に、タイの崩壊ビル

ビジネス

中国・EUの通商トップが会談、公平な競争条件を協議

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

トランプ氏、相互関税巡り交渉用意 医薬品への関税も
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 4
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 5
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 6
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 7
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 8
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 9
    最古の記録が大幅更新? アルファベットの起源に驚…
  • 10
    最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 10
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story