コラム

追い詰められる島国、イギリス:「合意なき離脱」目前にコロナ変異株で交通遮断

2020年12月21日(月)12時45分

イギリスは物資の多くを欧州大陸からの輸入に依存しているのだが。写真は、フランス側から英仏を繋ぐユーロトンネルに向かうトラックの列(12月17日) Pascal Rossignol-REUTERS

<ボリス・ジョンソンはEUの団結を甘く見た。このまま欧州から締め出されれば、イギリスは孤立し二流国への道を辿ることになるだろう>

イギリスと欧州連合(EU)の交渉期限の12月20日(日)が終わってしまった。

いったい、何度目の期限だろう。しかし、EUとイギリスは、漁業問題で合意に達することがどうしてもできない。

バルニエEU首席交渉官は、「真実の瞬間を迎えている。1月1日にこの合意を発効させたいのであれば、交渉に残された時間はわずかであり、有効な時間は数時間しかない」と欧州議会に語っていた。

そして欧州議会は、「20日24時までに合意文書を受け取らなければ、1月1日に協定(条約)が発効するように年内に議決するのは無理である」と、はっきり伝えていた。議会の不満は相当前からあった。

しかし、どんなに二者が頑張っても、交渉は年内ギリギリまで続くであろうことは、目に見えていた。

合意が20日までにできないと明白にわかった今、可能性は二つしかない。

年末までに合意に至れば、暫定的に1月1日から発効させて、そのあと両者の議会の批准を急ぐ。あるいは合意なし。

もしかしたら、三番目の可能性として、イギリスが最後の瞬間に交渉延期を申し出る可能性はないではないかもしれない。

欧州議会は「EU市民に選ばれた議員が集まる議会が軽んじられている」と不満だろうが、誰もが「非常時だ」ということで、この事態は正当化されるのだろうと感じていたに違いない。特にこの1、2日間は。

それほど別の方面からの非常事態が襲っていたのだ。

コロナ変異株の登場

ジョンソン首相は19日、感染力が最大で7割高いとみられる変異株の新型コロナウイルスが広がっているとして、首都ロンドンを含むイングランド南東部に事実上のロックダウン(都市封鎖)を再導入することを発表した。

変異株の名称は「VUI-202012/01」。イングランド南部のケント州で12月13日に最初に確認された。変異株の感染者は急速に増え、入院患者数も急増しているという。

ジョンソン首相は「まだ分からないことがたくさんある」ことも強調している。ハンコック保険大臣は、この新しい株は「制御不能」と言い、ワクチンが普及するまでは続く可能性があると述べた。

この新たな厄災のために、オランダに続いて、ベルギーがイギリスからの航空と鉄道の運行を停止することを決定した。

この決定は、先にオランダが取ったものと同様に、12月20日(日)の午前0時(欧州中央時間)から発効する。デ・クロー首相は、ベルギーのテレビ局VRTに、「停止は少なくとも24時間続く」と語った。

大陸側からの交通遮断

ベルギーは、EUの首都ブリュッセルを戴く国である。英仏海峡を通ってユーロスターも、ロンドン・ブリュッセル間を往復している。その国が、イギリスを締め出そうと決定したのだ。

イタリアも追随することになるだろう。イタリアのディ・マイオ外務大臣は、フェイスブックのアカウント上で、保健大臣と一緒に「英国とのフライトを停止する政令に署名する」と発表した。ただこの措置の発効がいつかは特定していなかったという。

ドイツも、イギリスと南アフリカからのフライトを禁止する措置を決定している。なぜ南アフリカかというと、ここでも変異株が発見されているからだという理由だ。

またアイルランドも、21日と22日の最低48時間は、空のコネクションを遮断した。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出合い、EUが変えゆく世界、平等と自由。社会・文化・国際関係等を中心に執筆。ソルボンヌ大学(Paris 3)大学院国際関係・ヨーロッパ研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。編著に「ニッポンの評判 世界17カ国最新レポート」(新潮社)、欧州の章編著に「世界が感嘆する日本人~海外メディアが報じた大震災後のニッポン」「世界で広がる脱原発」(宝島社)、連載「マリアンヌ時評」(フランス・ニュースダイジェスト)等。フランス政府組織で通訳。早稲田大学哲学科卒。出版社の編集者出身。 仏英語翻訳。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ショルツ独首相、2期目出馬へ ピストリウス国防相が

ワールド

米共和強硬派ゲーツ氏、司法長官の指名辞退 買春疑惑

ビジネス

車載電池のスウェーデン・ノースボルト、米で破産申請

ビジネス

自動車大手、トランプ氏にEV税控除維持と自動運転促
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story