コラム

20年以上も放置されてきた、UNRWAのテロ支援...背後のハマスとの関係にメスを入れるとき

2024年02月05日(月)13時10分
ガザのUNRWAの門扉

ガザのUNRWAの門扉には「武器持ち込み禁止」の表示(18年) MAHMOUD ISSAーSOPA IMAGESーLIGHTROCKET/GETTY IMAGES

<UNRWAとハマスの関係に関する証拠は長年あった。しかし、これを無視して資金提供を続けてきた国際社会。今こそ改革のための圧力を>

国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)は1月26日、複数の職員の解雇を発表した。10月7日のハマスによるテロ攻撃(10.7)に職員が関与していたというイスラエルからの情報を受けての対応だという。

米ニューヨーク・タイムズ紙はこれについて、疑いが持たれている12人のうち7人はUNRWAが運営する学校の教師で、5人は学校職員やソーシャルワーカーであり、襲撃への参加や、女性の拉致、遺体運搬や弾薬配布などに関与したとされると報じた。

これを受け、アメリカは実態解明と対応を求めUNRWAへの拠出金を一時停止すると発表。カナダやイギリス、ドイツ、イタリア、スイス、オーストラリアなどがこれに倣い、日本はG7諸国の中ではフランスと共に最後に拠出金停止を決定した。

惜しむらくは、ハマスがイスラエルに対する前代未聞の大規模テロ攻撃を実行してから、ようやく国際社会が一致団結した行動に出たことだ。

UNRWAのテロ支援には20年以上の歴史がある。

2001年にはUNRWAの運営する学校でハマス指導者が集会を開き、その後UNRWA職員がテロリストを賛美したと米下院議員が報告。02年にはUNRWA施設がハマスの武器庫となったり、テロリスト養成のサマーキャンプに関与したりしている問題を別の下院議員が報告した。

03年にはUNRWA職員がイスラエルの公共バスに火炎瓶を投げ付けるテロ事件が発生。04年にはガザ地区でイスラエル兵を殺害したテロリストがUNと明記された国連の救急車に乗って逃走する映像をロイター通信のカメラマンが撮影した。

08年にはUNRWA運営の学校の校長がテロ組織「イスラム聖戦」のためにロケット弾を製造していた事実が判明。14年にはUNRWAの診療所で爆発テロが発生し、15年にはUNRWA職員がフェイスブックで反ユダヤ主義を扇動していたと発覚した。17年にはUNRWA幹部職員がハマスのガザ地区幹部に選出され、20年にはUNRWA学校で手榴弾と自爆ベストが発見された。

21年にはUNRWA職員100人以上がソーシャルメディア上で暴力や反ユダヤ主義を支持したという報告書が出され、UNRWAが運営する学校で使用されている教科書が暴力、差別、反ユダヤ主義、テロを扇動していることをUNRWA事務局長が認めた。

10.7以降も多数のUNRWA職員がソーシャルメディア上でハマスのテロに喝采を送ったという報告書や、UNRWA学校の卒業生がテロを実行していた証拠、UNRWA教師が拉致されたイスラエル人を監禁していたという証言、ハマスがUNRWA物流拠点を支配している証拠、UNRWA学校が武器庫や攻撃拠点になっていた証拠などが次々と出された。

プロフィール

飯山 陽

(いいやま・あかり)イスラム思想研究者。麗澤大学客員教授。東京大学大学院人文社会系研究科単位取得退学。博士(東京大学)。主著に『イスラム教の論理』(新潮新書)、『中東問題再考』(扶桑社BOOKS新書)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

英総選挙、マードック氏の大衆紙サンが労働党支持を表

ビジネス

GM、炭素過剰排出で制裁金支払いと燃費クレジット没

ビジネス

FRB、物価圧力緩和を確認 利下げには一層の確信必

ワールド

トランプ氏支持率リード、バイデン氏高齢不安強く=米
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVの実力
特集:中国EVの実力
2024年7月 9日号(7/ 2発売)

欧米の包囲網と販売減速に直面した「進撃の中華EV」のリアルな現在地

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    黒海艦隊撃破の拠点になったズミイヌイ島(スネークアイランド)奪還の映像をウクライナが公開
  • 2
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 3
    キャサリン妃も着用したティアラをソフィー妃も...「ロータス・フラワー・ティアラ」の由緒正しい歴史とは?
  • 4
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 5
    ありなの? 飛行機の隣席に40kgの大型犬アメリカン…
  • 6
    北朝鮮を訪問したプーチン、金正恩の隣で「ものすご…
  • 7
    ウクライナ戦闘機、ロシア防空システムを「無効化」.…
  • 8
    爆風で窓が吹き飛ぶ衝撃シーンを記録....「巨大な黒…
  • 9
    H3ロケット3号機打ち上げ成功、「だいち4号」にかか…
  • 10
    「地球温暖化を最も恐れているのは中国国民」と欧州…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「帰ってきた白の王妃」とは?
  • 3
    爆破され「瓦礫」と化したロシア国内のドローン基地...2枚の衛星画像が示す「シャヘド136」発射拠点の被害規模
  • 4
    ウクライナ戦闘機、ロシア防空システムを「無効化」.…
  • 5
    ガチ中華ってホントに美味しいの? 中国人の私はオス…
  • 6
    ミラノ五輪狙う韓国女子フィギュアのイ・ヘイン、セク…
  • 7
    キャサリン妃は「ロイヤルウェディング」で何を着た…
  • 8
    H3ロケット3号機打ち上げ成功、「だいち4号」にかか…
  • 9
    「大丈夫」...アン王女の容態について、夫ローレンス…
  • 10
    キャサリン妃も着用したティアラをソフィー妃も...「…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に
  • 3
    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア
  • 4
    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…
  • 5
    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…
  • 6
    新型コロナ変異株「フラート」が感染拡大中...今夏は…
  • 7
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 8
    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…
  • 9
    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車…
  • 10
    爆破され「瓦礫」と化したロシア国内のドローン基地.…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story