コラム

国連の人権調査官、中露に「買収」され「人権侵害を隠蔽」した──UNウォッチ告発

2022年06月16日(木)17時13分
アリーナ・ドゥハン特別報告者

イランで会見し、イランへの制裁を批判したドゥハン(今年5月) AP/AFLO

<中国やロシアなどから金銭を受け取り、こうした国々による「人権侵害」に加担したとの報告は、国連人権理事会の機能不全を改めて浮き彫りにした>

国連人権理事会の特別報告者であるアリーナ・ドゥハンは中国やロシアなどの権威主義国から多額の献金を受け、その人権侵害隠蔽に加担している──。

国連の活動を監視する「UNウオッチ」は5月、国連が開示した情報に基づきこう報告した。ドゥハンは昨年には中国から20万ドルを受け取り、「新疆ウイグル自治区は素晴らしい土地」というバナーを掲げた中国政府後援のイベントに、「新疆の人々は幸福な生活を送っている」などと主張する中国高官らと共に出演。UNウオッチは、彼女が同イベントに国連のお墨付きを与え、中国がウイグル人迫害の責任を免れる手助けをしたと非難した。

ドゥハンはベラルーシ国立大学で国際法を教える教授で、20年3月から国連人権理事会の特別報告者を務めている。彼女はロシアからも15万ドル、カタールからも2万5000ドルを受け取り、昨年9月には中国主催の西側諸国の制裁に反対するイベントにも出演していた。共同開催国には彼女の祖国ベラルーシのほか、イランやベネズエラといった権威主義国家が名を連ねる。

人権の緊急事態に対処し、人権侵害を防ぐための国連人権理事会の特別報告者が、人権侵害を行っていると疑われている当局に「買収」され、その国には人権侵害など存在しないと報告するだけでなく、人権状況を悪化させているのはむしろ西側諸国による制裁なのだと責任転嫁している。

ドゥハンは5月の報告書で、イランに対する制裁は「国家収入の深刻な減少、インフレ、貧困率の増加、最も困っている人々の基本的ニーズを保障する資源の欠乏」につながる「人権と尊厳に対する深刻な脅威」だと述べ、アメリカを名指しで非難して制裁解除を要求した。

現在のイラン経済は中国に大きく依存

イラン国民の苦境は全てアメリカのせいだ、というのはイランのプロパガンダそのもの。制裁が解除されればイラン国民は救われるというのもまた、イランのプロパガンダである。

しかし15年のイラン核合意により制裁が解除された後、イランは各国のシーア派武装組織の支援を拡充し、その2年後にはイラク、レバノン、シリア、イエメンというアラブ4カ国の首都を実質的な支配下に置いた。イスラム独裁体制下にあるイランでは、経済を支配しているのも最高指導者とイスラム革命防衛隊だ。

しかも西側諸国の制裁を受けているイランの経済は今、中国に大きく依存している。昨年3月には中国と25カ年の包括的協定を締結。イランのロウハニ大統領(当時)と会談した中国の王毅(ワン・イー)外相は、アメリカによるイランに対する一方的な制裁を「違法で非人道的な行為」だと批判した。

プロフィール

飯山 陽

(いいやま・あかり)イスラム思想研究者。麗澤大学客員教授。東京大学大学院人文社会系研究科単位取得退学。博士(東京大学)。主著に『イスラム教の論理』(新潮新書)、『中東問題再考』(扶桑社BOOKS新書)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米2月求人件数、19万件減少 関税懸念で労働需要抑

ワールド

相互関税は即時発効、トランプ氏が2日発表後=ホワイ

ワールド

バンス氏、「融和」示すイタリア訪問を計画 2月下旬

ワールド

米・エジプト首脳が電話会談、ガザ問題など協議
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story