アングル:FRB議長解任の可能性に戦々恐々、確信薄れ動揺する市場

4月22日、 トランプ米大統領が連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長の解任を試みた場合、FRBのインフレ抑制能力や独立性に対する信頼が損なわれ、資産価格に大きな打撃が及ぶとの懸念が強まっている。写真は2017年11月、ホワイトハウスで記者会見するトランプ氏とパウエル氏(2025年 ロイター/Carlos Barria)
Carolina Mandl Davide Barbuscia
[ニューヨーク 22日 ロイター] - トランプ米大統領が連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長の解任を試みた場合、FRBのインフレ抑制能力や独立性に対する信頼が損なわれ、資産価格に大きな打撃が及ぶとの懸念が強まっている。
パウエル氏が解任されれば、すでに弱含んでいるドルが一段と売られ、株価は下落し、債券利回りは上昇する可能性があると市場関係者は予想している。
CVアドバイザーズのエリオット・ドーンブッシュ最高投資責任者(CIO)は、「市場はほぼ間違いなくインフレが加速する兆候と受け止め、長期金利の上昇を招き、世界の準備通貨としてのドルの地位を損なう恐れがある」との見方を示した。
こうした懸念はすでに市場で表面化しており、21日にはドルが3年ぶりの安値を更新し、指標となる米国債利回りが上昇した。S&P500種株価指数も下落し、2月の高値を約16%下回る水準となった。
パウエル氏の解任は投資家が長期債保有に対して求める追加利回りである「タームプレミアム」への上昇圧力を強める可能性がある。
パウエル氏の議長としての任期は2026年5月までだが、トランプ氏は先週、ソーシャルメディアへの投稿で、同氏をすぐにでも解任すべきとの考えを示した。米国家経済会議(NEC)のハセット委員長は18日、トランプ氏と側近らがパウエル氏を解任できるかどうか検討していると明らかにした。
<「万が一」を織り込む>
パウエル氏解任シナリオは実現のハードルが高いとみられているものの、一部の市場関係者からは可能性を真剣に考え始めているとの声も聞かれる。
ナティクシスの米国担当チーフエコノミスト、クリストファー・ホッジ氏はメモで、「以前はトランプ氏がパウエル氏を解任する可能性は極めて低いと考えていたが、その確信は薄れてきた」と述べた。
ジャクソン・スクエア・キャピタルのマネジングパートナー、アンドリュー・グラハム氏は、パウエル氏が実際に解任された場合、S&P500が4835を下回ると予想している。これは21日の終値から約6%の下落を意味する。
クレセット・キャピタルのジャック・アブリンCIOは、トランプ氏がFRBに自らの息のかかった人物を送り込み、インフレ率上昇にもかかわらず利下げを行えば、「現在(市場で)起きていることが続くだろう」との見方を示した。
同氏は「株価もドルも過大評価されているため、さらに下落する余地がある」と分析した。S&P500は10─15%過大評価されているという。
ワールド・インベストメント・アドバイザーズのネート・ギャリソンCIOは、パウエル氏はFRBで安定した手腕を発揮しており、実績は一貫性があると評価した上で、「(同氏を)解任するという脅しだけでも、人々は震え上がる」と語った。
<パウエル氏の後任候補>
米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は先週、トランプ氏がパウエル氏の後任にケビン・ウォーシュ元FRB理事を充てる可能性があると報じた。
キャピタル・エコノミクスは、ウォーシュ氏のような十分な資格を備えた人物が指名されれば、当初の市場の反応は「悲惨なものにならないかもしれない」と述べた。
しかし、議長交代は「FRBの独立性を解体する第一歩」と見なされる公算が大きく、他のFRB理事も解任される事態になれば、市場の反応はさらに深刻なものとなるだろうと警告した。
一部の市場関係者は、トランプ氏が取り得るより簡単な方法として、パウエル氏に代わって投資家が指針とする「影のFRB議長」を置く可能性を指摘する。しかし、市場から否定的に受け止められる可能性がある。
タングルウッド・トータル・ウェルス・マネジメントのマクロ投資ストラテジスト、トム・ブルース氏は「もし新しい議長が就任しても金融政策が緩和に向かうと見なされれば、事態は厄介になるだろう」と述べた。