コラム

国連の救済機関がテロを扇動している? 日本で報じられない闇とは

2021年06月23日(水)19時31分
UNRWAによる食糧提供(ガザ、2020年)

コロナ禍のなか、UNRWAの食糧が提供される(ガザ、2020年) AP/AFLO

<国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)には日本の税金も使われているが、数々の疑惑は知られていない>

日本政府は6月、「イスラエルとパレスチナ武装勢力間の衝突により大きな被害を受けたガザ地区」に1000万ドルの緊急無償資金協力を実施すると発表した。うち530万ドルは国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への割り当てが決まっているが、UNRWAにまつわる数々の疑惑は日本でほとんど知られていない。

5月末、UNRWAはガザで運営する学校の下でイスラム過激派組織ハマスのトンネルを発見したと発表した。2017年にもUNRWAは学校の下でトンネルを発見、15年に公表された国連の調査はハマスがUNRWAの学校を武器庫として利用していたと結論付けた。イスラエルの国連大使は、ハマスが子供を人間の盾として利用していると非難した。

ドイツのビルト紙は6月、UNRWAの学校で使用されている多くの教科書がパレスチナ解放闘争を「革命」や「ジハード」と呼び、マシンガンを持った5人の覆面男の写真が「パレスチナの革命家」というキャプション付きで掲載されていることを明らかにした。

ほかにも1978年に13人の子供を含むイスラエル人38人を殺害したテロ集団の1人であるパレスチナ人女性ダラル・ムグラビが女性のロールモデルとして何度も取り上げられていること、「ユダヤ人が繰り返し預言者ムハンマドを殺そうとしたこと」が議論のテーマとされるなど反ユダヤ主義の扇動が散見されること、多くの地図では国家としてのイスラエルが消し去られていることなどを伝え、EUがUNRWAに資金提供していることを問題視した。

17年にはジュネーブに拠点を置くNGO国連ウォッチが、UNRWAの学校の教師がテロや反ユダヤ主義を扇動している証拠を米議会で提示した。

UNRWAは運営する学校で「非暴力、健全なコミュニケーションスキル、平和的な紛争解決、人権、寛容、良き市民としての自覚を促進すること」を目指す人権教育を行っているとしている。憎悪をあおり暴力を奨励する教科書や教師は、明らかにこれに矛盾する。

職員3万人以上の巨大組織UNRWAは、権力の乱用や腐敗も指摘されている。

19年にはUNRWA倫理局の内部報告書をカタールの放送局アルジャジーラがリークし、UNRWA事務局長のピエール・クレへンビュールが恋仲となった職員のために「特別顧問」なるポストをつくり、職務中も彼女の部屋に入り浸り出張にも同行させていたなどと報じた。クレヘンビュールは疑惑を否定したものの後に辞任。同報告書はほかにも3人のUNRWA幹部による職権乱用や差別を告発している。

プロフィール

飯山 陽

(いいやま・あかり)イスラム思想研究者。麗澤大学客員教授。東京大学大学院人文社会系研究科単位取得退学。博士(東京大学)。主著に『イスラム教の論理』(新潮新書)、『中東問題再考』(扶桑社BOOKS新書)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口の中」を公開した女性、命を救ったものとは?
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 5
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story