コラム

トルコでは七面鳥(ターキー)を「インド人」と呼ぶ

2016年12月26日(月)13時23分

GMVozd-iStock.

<サンタクロースのモデル、聖ニコラオが活躍したのは小アジアのミュラ(現在のトルコ・アンタルヤ)。赤い服、白いヒゲのイメージが広まったのはコラ・コーラの宣伝から。キリストの誕生日は12月25日とは限らない。そして七面鳥は......>

 この原稿を書いているのは12月後半。世間はクリスマス・モード一色で、あちこちにクリスマス・ツリーやサンタクロースが飾ってある。いつの間に日本はキリスト教の国になったのか、と見紛うばかりだ。実は今、出張でバハレーンにきているのだが、このイスラームの国にあっても、街のあちこちにクリスマスの飾りつけがあり、日本のことだけを嘆いてはいられない。

 その昔、サウジアラビアで面白い経験をした。サウジは厳格なイスラームの国なので、実はクリスマスをお祝いすることが事実上、禁止されている。にもかかわらず、12月になると、あちこちでクリスマス・カードのようなものを売りはじめるのだ。「のような」といったのは、たしかに雪をかぶったクリスマス・ツリーのようなものが絵柄になっているのだが、メリー・クリスマスといった文言も十字架などキリスト教を匂わせるものも一切描かれていない。

【参考記事】「メリークリスマス禁止」をあの男が変える!?

 また、新聞やテレビの人生・法律相談のようなコーナーでも、友人のキリスト教徒からパーティーに誘われたけれど、いっていいでしょうか、といった質問が繰り返し出てくる。だいたい答えは「ダメ」なのだが、これは、イスラーム教徒とだけ仲良くして、異教徒との交流は避けなければいけないという考えかたがサウジアラビアでは建前として根づいているからである(したがって、クリスマスにかぎらず、バレンタインデーなど宗教がらみの日は、基本的にサウジアラビアでは祝うことができない)。

【参考記事】死と隣り合わせの「暴走ドリフト」がサウジで大流行

 さて、クリスマスといえば、サンタである。一般にサンタクロースは、北極とかフィンランドとかノルウェーとか、とにかく北に住んでいるというイメージがある。サンタクロースのモデルになった聖ニコラオ(セント・ニコラス)は紀元3世紀から4世紀のあいだに小アジアのミュラで活躍したキリスト教の聖人だ。聖ニコラオは貧しい人たちに施しをしたことで知られ、子どもの守護聖人にもなっている。ここからサンタが子どもたちにプレゼントをもってくるという話が出てくるのだが、実はミュラは現代の地名でいえば、中東トルコ南西部のアンタルヤに当たる。このあたりは、トルコのリビエラとも呼ばれるぐらい温暖な気候で知られ、北極とは月とスッポン。もちろん、トナカイなどいない。

 サンタクロースが地中海から北極にまで移動する大旅行については、学術的なものも含め、すでにさまざまな研究がある。乱暴に単純化していうと、キリスト教のヨーロッパ伝播に際し、聖人伝説と北欧神話が入り混じり、さらに米国の移民たちの風習とコマーシャリズムが合わさって、今日のクリスマスになったということであろう。赤い服、白いヒゲのサンタクロースのイメージができあがったのは20世紀初頭とされ、これは1930年代から、同じ赤・白をシンボルカラーとするコカ・コーラの宣伝に乗って世界中に拡散していったといわれている。

 異教の国、日本ではクリスマスは12月25日で、これはキリストの誕生日だということになっているが、世界ではそうでない場合もある。たとえば、中東でいうと、アルメニア教会では1月6日、エジプトのコプト教会では1月7日がクリスマスに当たる。まあ、そもそも新約聖書のなかにはキリストがいつ生まれたとか書いていないので、後世、ローマの冬至の祭をキリスト教がキリストの誕生日として取り入れたという説が有力である。

プロフィール

保坂修司

日本エネルギー経済研究所中東研究センター研究顧問。日本中東学会会長。
慶應義塾大学大学院修士課程修了(東洋史専攻)。在クウェート日本大使館・在サウジアラビア日本大使館専門調査員、中東調査会研究員、近畿大学教授、日本エネルギー経済研究所理事・中東研究センター長等を経て、現職。早稲田大学客員上級研究員を兼任。専門はペルシア湾岸地域近現代史、中東メディア論。主な著書に『乞食とイスラーム』(筑摩書房)、『新版 オサマ・ビンラディンの生涯と聖戦』(朝日新聞出版)、『イラク戦争と変貌する中東世界』『サイバー・イスラーム――越境する公共圏』(いずれも山川出版社)、『サウジアラビア――変わりゆく石油王国』『ジハード主義――アルカイダからイスラーム国へ』(いずれも岩波書店)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 7
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story