アングル:ロシア小売市場、西側ブランド復帰なら競争激化で新たな試練に
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トランプ米政権がロシアとウクライナの停戦合意を急ぐ中で、西側ブランド企業のロシア市場への復帰の可能性が取りざたされている。写真は、紳士服チェーン、ヘンダーソンの店舗入り口。2月25日、モスクワで撮影(ロイター/Shamil Zhumatov)
Roman Churikov Olga Popova Yevgeniy Matveev
[モスクワ 26日 ロイター] - トランプ米政権がロシアとウクライナの停戦合意を急ぐ中で、西側ブランド企業のロシア市場への復帰の可能性が取りざたされている。ただ衣料品から自動車まで、ロシア市場は西側企業が撤退した3年前よりも競争環境が厳しいように見える。
トランプ大統領はロシアによるウクライナ侵攻開始からちょうど3年となった24日、具体的な手段は不明ながら、戦争を数週間以内に終わらせることができると発言した。
実際に西側企業が大挙してロシアに戻るためには、クロスボーダー決済(国際決済)や貿易取引の足かせとなっている西側諸国の制裁が緩和される必要があるだろう。思い切ってロシアに再参入する企業が目にするのは、市場が、地元勢や特に自動車の場合は中国勢に牛耳られているという実態だ。
2023年終盤にモスクワ証券取引所への上場を果たしたロシアの紳士服チェーン、ヘンダーソンは、幾つかの西側小売企業が撤退したことが事業拡大の追い風になったと明かす。主な理由は、ショッピングセンターの「一等地」を西側企業の代わりに確保できるようになったことだという。
そのおかげでヘンダーソンの売上高伸び率は紳士服業界全体の年8%の3倍に達した。
ヘンダーソンの広報部門はロイターからの問い合わせに対して「市場自体が大幅に変化したわけではない。多数の外国ブランドは出ていかなかった。(彼らは)販路を変更し、地元の複数ブランドを扱う店舗を利用したり、自社店舗の看板を取り替えたり、新しい商標を導入したりした」と話す。
消費財は制裁の対象ではないが、多くの企業がロシアとの取引を拒否したため、モスクワは第三国を経由した非正規の輸入を合法化した。これにより、小売業者は商標権者の許可なしに外国製品を販売できるようになった。
<一等地の奪い合い>
変わったのは、かつて西側企業が占めていたショッピングセンターの一等地に今、ロシア勢が進出している構図だ。
ロシア・ベラルーシ・カザフスタン・ショッピングセンター協会のバイスプレジデント、パベル・リューリン氏は「西側ブランドが店を構えていた最も良い場所は既に埋まっている。これらは長期契約なので、そうした場所はどこも激しい争奪戦になる」と話す。
ロシア政府が西側企業の復帰を歓迎する公算も乏しい。プーチン大統領は21日、外国企業が戻ってくるとしても、ロシアの生産者を優遇しなければならないと強調した。
3年前のウクライナ侵攻以来、ロシアから引き揚げた西側企業は数千社に上る。ある企業は制裁や決済面の問題に伴うコスト高と混乱を嫌い、他の企業、特に小売り企業はロシアの行動に対する抗議の意味で撤退した。
その後、ロシアの小売市場はまだ完全に回復しておらず、リューリン氏によるとショッピングセンターの客足は2019年と比べて20%下回ったままだ。
ただロシアの消費者は地元企業を買い物先に選んでいる。モスクワの主要商店街でロイターの取材に応じた市民のアンナさん(29)は「当初は非常に大変だった。ロシア国内の衣料品や靴の市場は発展が遅れていたから。ただ現在は全く違う。地元ブランドは(西側製品に)劣らない製品を製造している」と語った。
外国ブランドと国内ブランドの双方を取り扱い、昨年ヒューゴ・ボスのロシア事業を買い取った衣料品販売会社ストックマンのモスクワにある店舗で働くダリヤさんは、国内ブランドの売上高が増加していると指摘した。
<中国勢も穴埋め>
モスクワ在住のアナスタシア・エフレモワさん(38)は、西側企業の撤退で幾つかの自動車部品が購入できなくなるのではないかとの不安があったが、全て在庫はそろっていると話す。
2000年代初めにロシアへ進出した外国自動車メーカーは市場育成に貢献したが、ウクライナ侵攻をきっかけにルノーやフォルクスワーゲン、日産自動車などが突然撤退。この穴を埋めたのが主として中国メーカーで、ウクライナ侵攻開始前は10%弱だった新車販売のシェアは50%強に高まっている。
ロシアメーカーのシェアも2022年2月以前の20%弱から約30%に拡大した。
今のところ、西側企業は、すぐにロシアに復帰する構えを見せていない。先週には「ルアーパックバター」を製造するアルラ・フーズや、インターコンチネンタル・ホテルズが、当面ロシア市場に再参入する計画はないと明言。ルノーも、22年の撤退時に合意した条件で復帰する公算は極めて乏しいとしている。
モスクワ中心部の衣料品店で働くバレリアさんは、地元ブランドはせっかく獲得した市場を守りたいし、外国勢が戻ってきても張り合えるだけの強さを備えていると確信していると胸を張った。