焦点:韓国の少子化対策に奏功の兆し、世界最低レベルの出生率が上昇
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世界最低を記録していた韓国の出生率が、2024年に上昇を見せた。過去9年間で初となる。写真はソウルで子どもをあやす、ナム・ヒュンジンさん。2月17日撮影(2025年 ロイター/Daewoung Kim)
Jihoon Lee Hyun Young Yi
[ソウル 26日 ロイター] - 世界最低を記録していた韓国の出生率が、2024年に上昇を見せた。過去9年間で初となる。コロナ禍で先送りしていた結婚に踏み切るカップルが増加し、企業と国民に子育て支援を促す政策努力が成果を生みつつある。
ナム・ヒュンジンさん(35)は昨年8月に2人目の娘を授かったが、社会の変化を実感していると語る。その大きな要因は、政府が子育て支援策を拡大し、その取り組みに参加する企業が増えたことだという。
「最初の子が生まれた5年前に比べて、社会全体が出産を奨励するようになった」とナムさんは言う。
さらに重要な点として、「企業文化が出産を奨励するようになっているのが、とても助かる」とナムさんは指摘する。ナムさんの勤務先である建設会社のブヨングループは昨年から、従業員に対して1億ウォン(約1000万円)の出産祝い金を支給するようになった。
こうした社会の変化は、韓国にとって大きな転機になるかもしれない。韓国では、住宅や育児のコストが高騰したため、女性が結婚や子育てよりもキャリアの向上を重視するようになり、過去10年のあいだに出生率が世界最低の水準まで急落した。
このままでは5100万人の総人口が今世紀末には半減する勢いであり、アジア第4位の規模を誇る経済の成長と社会保障制度の維持にとって、人口危機は最大のリスクとなっている。
だが2024年、暗雲の漂っていた韓国の出生率統計に明るい兆しが見えた。出生率は依然として世界でも過去に類を見ない低さではあるが、23年の0.72に比べ0.75に上昇した。出生率低下に歯止めをかけるべく、韓国は少子化対策に何十億ドルも投じてきたが、それでも出生率は15年の1.24から8年連続で低下していた。
回復の大部分は、コロナ禍に延期されていた結婚が増加したことを反映しているが、それ以外のデータからは、単にコロナ禍からの一時的な反動だけでなく、政府の対策が奏功している兆しも見られる。
四半期データによれば、2024年後半に第1子の出生数が11%増加したのに対し、ナムさんのような第2子の出生数は12%増加している。
<まさに転機>
人口政策担当の大統領秘書官を務めるヨー・ヒェミ氏はロイターに対し、「今後しばらくは(出生率が)さらに上昇する可能性が高く、私たちはまさに転機を迎えている」と語った。
現在、弾劾裁判中の尹錫悦大統領は昨年、「国家的人口危機」への対処に特化した新たな省の設立を提案した。効果に乏しかった従来の給付金中心の支援策から、もっと幅広いアプローチを目指すものだ。
ロイターが先週、政策担当者や関連業界の専門家、エコノミスト、韓国の母親らにインタビューを行ったところ、出生率回復の要因として挙げられたのは、仕事と家庭のバランス、保育、住宅という3分野における政府の支援策と、さらに企業に子育て奨励を呼びかけるキャンペーンだった。
韓国政府は今年、上記3つの重点分野に19兆7000億ウォン(約2兆円)を支出する予定で、これは2024年に比べ22%増となる規模だ。
モルガン・スタンレーで韓国・台湾担当エコノミストを務めるキャスリーン・オー氏は、「韓国が直面している人口推移は、世界でも最も困難なレベルにある。政府は6月に「人口非常事態」を宣言したが、それは決して誇張ではない」と語る。
「リアルな危機感が感じられ、関連当局がその場しのぎの対策ではなく、構造改革に向けて動いているのは朗報だ」
昨年実施された政策転換の1つは、父母双方が育児休暇を取得する場合に給与が全額支給される期間を、それまでの最長3カ月から6カ月に延長したことだ。
さらに、父母双方が取得する場合、育児休暇の最長期間が1年から1年半へと延長された。
父親の育児休暇も、最長10日から20日に延長された。中小企業の従業員については、政府が休暇期間中の給与を肩代わりする。
政府は今年から、上場企業に対し、法令で定められた提出文書に育児関連の統計を記載することを義務付けるとともに、政府の少子化対策プロジェクトに対するインセンティブ、中小企業を対象とする助成金を提供するようになった。
こうした政策は実を結び始めているようだ。
23年の婚姻件数はコロナ禍後の反動で12年ぶりに増加に転じ、さらに2024年には、過去最高のペースで急増した。昨年の政府の調査では韓国民の52.5%が結婚に対して肯定的な見方を示しており、14年以降で最高の数値となった。
翰林大学のシン・キュンア教授(社会学)は、「政府は、制度面で打てる限りの手を打っている。今求められるのは、より多くの企業がこうした少子化対策を取り入れることだ」と語った。
昨年、ブヨングループが出産祝い金制度を発表したところ、同社従業員のあいだで出産が急増した。
ブヨンのキム・ジンソン人事部長は、「結局のところ、企業としてもこれが生き残るための手段だ。我が社はアパートを建てるが、そこで生活する人たちが十分にいなければ、アパートだって売れない」と語った。
<対策は道半ば>
大統領代行を務める崔相穆(チェ・サンモク)経済副首相兼企画財政相は今月、「この勢いを生み出すのは難しかったが、しっかりと維持していかなければならない。そのためには、フリーランスや自営業といった、少子化対策の空白地帯になっている部分を急いで埋めていく必要がある」と語った。
とはいえ、特に若い世代の中には、「この勢い」と無縁の人たちもいる。
学生のキム・ハラムさん(21)は、「手放しで喜べることではないと思う。この韓国社会で結婚して子どもや家庭を持つことは簡単ではないし、お金もたくさんかかる」と語った。
韓国で最後にベビーブームが見られたのは1991年から1996年にかけてのことだった。韓国は2030年までに出生率を1まで上げたいとしているが、それでも人口の安定維持に必要な出生率である2.1には遠く及ばない。
前出のシン教授は、人口動態における課題として、非正規雇用の比率が27.3%と高い点を指摘する。これは経済協力開発機構(OECD)加盟国の中で2番目に高く、OECD平均は11.3%だ。
シン教授は、「この国では大企業と小企業、正社員と非正規労働者の格差が非常に大きい。少子化対策の制度を万人向けのものにするために、政府にはさらなる工夫が求められる」と語った。
(翻訳:エァクレーレン)