アメリカで話題、意識高い系へのカウンター「贅沢品としての信念」(luxury beliefs)とは
とはいえ個人的に思うのは、ようやく米国の右派が、左派と勝負できるだけのナラティヴを手に入れつつあるのだな、ということだ。レーガン以降の右派は、右派の外へリーチし、アピールするような言説をうまく構築できなかった。今さら神を崇めよと言ったところで時代錯誤のそしりは免れないし、小さな政府、反共、自由競争といったお題目の輝きも冷戦後はだんだん色褪せた。いわゆるMAGAもドナルド・トランプという個人のカリスマに多くを負っていて、そう長続きするとは思えない。おそらく「贅沢な信念」のような焼き直しの社会保守主義が、今後そのニッチを埋めるのだろう。
個人的には別に上流階級というわけでもないのだが、この種の考えにはいまいち乗れない。というのも、私は「贅沢な信念」と似たようなことを言っていた人物を一人知っているからだ。思うにこの種の議論は、結局エリートの自己正当化に使われるのである。
1974年、ルター派教会のヘルムート・フレンツ監督と、カトリックのエンリケ・ アルベアール司教がピノチェトに面会し、「肉体的圧力(ピノチェトを憚って「拷問」の用語を避けた)」を止めるよう申し入れた。ピノチェトは自ら「拷問のことかね?」と返し、「あんた方(聖職者)は、哀れみ深く情け深いという贅沢を自分に許すことができる。しかし、私は軍人だ。国家元首として、チリ国民全体に責任を負っている。共産主義の疫病が国民の中に入り込んだのだ。だから、私は共産主義を根絶しなければならない。(中略)彼らは拷問にかけられなければならない。そうしない限り、彼らは自白しない。解ってもらえるかな。拷問は共産主義を根絶するために必要なのだ。祖国の幸福のために必要なのだ。」(アウグスト・ピノチェト)
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