コラム

本来的にどうしようもなく偏っている我々の一票がなす民主主義の意味

2019年03月01日(金)18時32分

我々は本来的にどうしようもなく偏っている

前回述べたように、政治や政策に関する我々の知識は甚だ乏しいことが分かってきている。知識が無いなら学べば良いわけだが、学んでも個人のレベルでは得にならないので、勉強するインセンティヴがない。実際、今ほどインターネットや図書館等で知へのアクセスが容易な時代はないわけだが、調査によれば、政治リテラシーは40年前から大して上がっていないのである。これは頭が良いとか悪いという話ではないので、より深刻だ。

さらに最近の行動経済学や認知心理学が示すのは、我々は自由にものを考えているようで、実はそうでもなく、思考に変な「クセ」があるということだ。我々は先入観から逃れられず、都合の良い情報を受け入れがち(あるいは都合が悪い情報には目をつぶりがち)だし、身内に甘く外部を必要以上に敵視しがちだ。

ようするに、我々は本来的にどうしようもなく偏っているのである。自分の見たいものを好きなだけ見せてくれるインターネットがこの傾向を加速し、またこの偏りが、分極化やいわゆる「熟議」の不毛さを導いてしまっている。

有権者個々人の知識が乏しくても、代議制なのだから構わないという意見もあるだろう。しかし、そもそも判断力が無いのにちゃんとした代表者を選べるのか、あるいは事後的に彼らを評価出来るのかという問題がある。現代の複雑を極める社会において、政策の検証には能力に加えて時間も含めた膨大なコストがかかるわけで、一般の有権者が代表者を監視するのはどだい無理な話だ(ジャーナリズムの衰退もこれに拍車を掛けている)。

また、代表者である職業政治家の側からしても、政策にこだわったところで評価されず、当選にもつながらないわけで、大衆迎合的なデマゴギーに走るのはむしろ当然のことと言えよう。

「我々が一票を投じるのは、目隠ししてダーツを投げているようなもの」

前回、「我々が一票を投じるのは、往々にして目隠ししてダーツを投げているようなものなのだ」と書いた。確かに意志決定とは、本質的にダーツを投げるようなものなのである。的の中央に当たることもあるし、外れることもある。それは構わないのだが、しかし目隠しして投げるのは流石に問題あるでしょう、というのが、能力原則を巡る議論の中核だ。

選挙権は選挙「権」であって、権利であると同時に他者に行使する権力である。それを行使する主体として我々はどうかと考えたとき、知識もなく、判断力もなく、おまけに偏っているわけで、「まとも」とは言い難いのではないだろうか。

我々は、個別の問題に関しては目隠しされていることに気づくことが多いのだが、民主主義の是非、というようなあまりにも大きな問題では、原則を見失ってしまいがちなのである。

プロフィール

八田真行

1979年東京生まれ。東京大学経済学部卒、同大学院経済学研究科博士課程単位取得満期退学。一般財団法人知的財産研究所特別研究員を経て、現在駿河台大学経済経営学部准教授。専攻は経営組織論、経営情報論。Debian公式開発者、GNUプロジェクトメンバ、一般社団法人インターネットユーザー協会 (MIAU)発起人・幹事会員。Open Knowledge Foundation Japan発起人。共著に『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、『ソフトウェアの匠』(日経BP社)、共訳書に『海賊のジレンマ』(フィルムアート社)がある。

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