コラム

ムラー報告書でロシア疑惑は晴れず、狂乱は大統領選まで続く

2019年05月02日(木)06時40分

これで潔白が証明されたとトランプは主張しているが…… LUCAS JACKSONーREUTERS

<ロシア疑惑に関する特別検察官の報告書が公表されたが、その内容はトランプの司法妨害を認定したに等しい>

4月18日、ロシア疑惑を捜査していたロバート・ムラー特別検察官の捜査報告書がついに公表された。翌日は、キリスト教の聖金曜日。キリストがはりつけにされた受難を記念する日だ。

十字架で息を引き取る前にキリストが発した言葉は「全てが終わった」だったという。トランプ米大統領を擁護することに懸命なバー司法長官もこの報告書で「全てが終わった」と印象付けたいようだが、そうはいきそうにない。448ページに上る報告書に記された数々の事実は、トランプを苦しめ続けるだろう。

捜査の焦点は2つあった。1つは、トランプと陣営関係者が16年の大統領選に勝つためにロシアの情報機関と共謀したかどうか。もう1つは、トランプと陣営関係者が司法妨害を行ったかどうか。要するに、大統領選へのロシアの干渉についての捜査を妨げたかだ。

報告書によると、ムラーは、現職大統領を刑事起訴することはできないという司法省の方針を尊重していた。ムラーはその制約の下、トランプをロシア側との共謀で罪に問うには「証拠が不十分」だと結論付け、司法妨害については判断を避けた。

しかし、報告書には見過ごせない記述がある。司法妨害が全くなかったと断言できるのなら、そう明言しただろうが、捜査協力を拒むなどのトランプの行動により、そのような結論に到達することはできなかったと記されているのだ。

これは、司法妨害があったと遠回しに言っているに等しい。ムラーとしては、特別検察官の権限を逸脱するため、司法妨害の罪は問えないと感じた、というわけだ。

大統領弾劾の可能性は?

これで潔白が証明されたというのがトランプと共和党の主張だが、報告書を読むと、そのような結論は導き出せない。そこには、トランプと陣営関係者がロシア側と再三にわたり接触していたこと、トランプがあからさまに捜査を妨げようとしたことが繰り返し記されている。

大統領周辺がムラー解任などの指示を実行せず、トランプ自身も事情聴取を拒み続けたために、トランプは司法妨害の罪を問われずに済んだにすぎない。

有罪を勝ち取ることではなく、正確な情報を把握することが任務のCIAなど情報機関関係者の間では、トランプがロシアの情報機関と共謀し、捜査妨害をたびたび行ってきたことは、かなり前から常識だった。私が話を聞いた情報機関関係者は、一人残らず同じ認識を持っていた。

現職大統領を弾劾・罷免すべきかを判断できるのは、議会だけだ。議会は長大な報告書の内容を吟味し、トランプを無罪放免するか、それとも罷免すべきかを判断しなくてはならない。

つまり、今後の論争の舞台は議会に移る。野党の民主党は、捜査の継続を主張するだろう。一方、トランプを守りたい共和党は、報告書により潔白が立証されたと主張し、捜査を「魔女狩り」と非難するに違いない。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story