コラム

今や保守主流派と一体化したオルト・ライト

2018年11月01日(木)17時00分

オルト・ライト寄りの姿勢を示してきたトランプ Kevin Lamarque-REUTERS

<出版社やネットを通じて影響力を強めた「新しい極右」が、変幻自在なテロ勢力のように共和党政権を操っている>

アメリカに「オルト・ライト(新極右)」という言葉が生まれて、まだ10年ほどしかたっていない。ところがオルト・ライトは、既に共和党を排外的な国粋主義政党のように変えた。しかも運動の信奉者がホワイトハウスに送り込まれ、大統領として強権的な姿勢を強めている。

もちろん白人至上主義の歴史は、アメリカに共和制が誕生したときにまでさかのぼる。合衆国は南部の奴隷所有者との「悪魔との取引」によって生まれた。奴隷制と引き換えに国家を統一したのだ。

しかしオルト・ライトの運動としての構造は、実に現代的だ。運動を支配する上意下達の組織はなく、思想の基盤を支える「識者」があちこちにいる。

アメリカでは昨年以降、オルト・ライトは崩壊したと受け止められていた。代表的人物で右派ニュースサイト「ブライトバート」編集者のマイロ・ヤノプルスは小児性愛の擁護者という疑惑が発覚した後、大半のソーシャルメディアから締め出され、著書の執筆契約も取り消された(その後、自著を出版してベストセラーになったが)。

今ではオルト・ライトのデモは数えるほどしかなく、それも中身のない宣伝文句を叫んでいるだけだ。ボストンでは過去1年間に、「言論の自由」を訴えるオルト・ライト約200人に対抗し、延べ4万人のデモ隊が繰り出してその声をかき消した。

だが、ここで問題の核心を見逃してはならない。オルト・ライトはアメリカの社会と政界の「右派」の性質を変えた。ネット上での中傷のやり方から、共和党の政治家やベストセラー本への影響力に至るまで、オルト・ライトはもはや「主流」と言っていい。

白人の6%近くが思想に共鳴

08年に「オルト・ライト」という名称を生んだとされるのは、リチャード・B・スペンサーという無名の哲学者。従来の共和党主導の右派と、白人ナショナリズムを信奉する新しいファシズム勢力を区別するためだった。こうして体裁が整えられたおかげで、大手を振って支持を集めるようになった。

今やアメリカの非ヒスパニック系白人の6%近く、数にして約1100万人がオルト・ライトに共鳴している。オルト・ライト寄りの姿勢を示すことも多いドナルド・トランプ大統領を支持する有権者は常に約40%おり、彼らはオルト・ライトの基本原理の少なくとも1つに賛同している。白人であることの強いアイデンティティー、白人の連帯を重視する姿勢、白人の被害者意識と権威的な指導者の擁護だ。

オルト・ライト支持者は学歴が高くない労働者層が多く、意外にも男性より女性のほうが多い。特定の信仰との強い相関はなく、年齢層は幅広い。白人優越の時代を取り戻したがっているように思えるが、「怒れる老いた白人」というわけではない。

運動の主戦場の1つはネットだ。特に「ブライトバート」や「オルタナティブ・ライト」といったウェブサイトは、大きな影響力を持つ。

本も人気だ。今よく売れているのは、グレッグ・ジョンソンの『白人ナショナリズム宣言』。最も悪名高いのは、米政府打倒と人種戦争を呼び掛けたウィリアム・ピアースの『ターナー日記』。95年にオクラホマシティー連邦政府ビル爆破事件を起こしたティモシー・マクベイは、この本に影響された。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    注目を集めた「ロサンゼルス山火事」映像...空に広が…
  • 10
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story