トランプ「機密メモ」が民主主義をつぶす
ヌネスのメモはFBIが職権を乱用したと指摘しているが Jim Bourg-REUTERS
<ロシア疑惑捜査から目をそらしトランプ大統領の権限を強化――「陰謀説」を主張するトランプ派のあきれた本音>
ロシアの米大統領選介入疑惑をめぐるFBIの捜査の信頼性を損ないかねない機密メモが2月2日に公開された。まとめたのは下院情報特別委員会のデビン・ヌネス委員長(共和党)だ。
カーター・ページ(大統領選でトランプ陣営の外交顧問を務め、ロシア情報当局とのつながりが疑われている)の監視令状を取る際、FBIが適正な手続きを怠ったと、共和党は主張している。「ヌネス・メモ」はFBI、司法省、CIAに潜む「ディープステート(国家内国家)」の人間がトランプ打倒のため職権を乱用し、国家に対する「反逆」とアメリカ史上最大のスキャンダルに関与していることを証明するはずだった。
だが実際は、トランプ擁護派(FOXニュース、共和党指導部、草の根保守派連合ティーパーティーのメンバー)を除く誰もが、メモはトランプ支持者による露骨なデマで、FBIと司法省の行動は適切だったと認識している。実際、メモが指摘するFBIの不正はどれも公開当日に反証されている。
ヌネスのやり方は詐欺まがいだった。メモ公開をめぐる下院情報委員の賛否は共和党と民主党で真っ二つ。FBIや司法省にはメモを見せず、FBI長官と司法副長官がこの件でコメントすることも許可していない。
自身もトランプの政権移行チームの一員だったヌネスは、トランプの側近に対する政府の捜査に関与できない立場だった。にもかかわらず不正疑惑の調査責任者の座に居座り、自ら不正の証拠とするFBI文書の内容を知らないことを認めていながら、FBIを断罪した。
メモは中身のない主張ばかりだ。トランプに対する恐るべき陰謀、ディープステートによる国民の民主的意思の弱体化を証明すると、ヌネスらトランプ擁護派は主張する。正当な理由や適切な監督を伴わない監視は、ページが市民として有する自由に対する重大な侵害だと、メモが証明するという。
トランプが勝ち誇ったのは言うまでもない。あるインタビューでは30分間に16回もロシアとの「共謀はない」と主張し、かえって発覚を恐れているとの印象を強める結果になった。
まるでファシストの発想
メモをじっくり読めば、監視令状を取るに当たってFBIは適切な手続きを踏んでいることが分かる。3つの省から高官5人以上が7回にわたり、90日ごとの裁定プロセスを繰り返し、令状要請を検討した。それも、外国情報監視法(FISA)に基づく監視対象にページが該当するとFBI捜査官が判断した場合に限ってだ。
さらに言えば、ディープステート自体、ファシストの発想だ。民主主義制度は「国民」の利益を代表しておらず、彼らの意思に反して行動する隠れた個人に牛耳られていると、ファシストは主張する。民主主義制度の信用を低下させ、「指導者」がそうした制度を破壊して独裁的に支配できるよう画策するためだ。
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