コラム

やはり移民しか日本を救う道なし

2021年06月29日(火)14時47分

加えて日本には宗教対立が比較的少ない。マンションの一室にイスラーム教徒のモスクができても、それを異端視する日本人は少ないだろう。日本人は欧州と違って生活の根本に宗教的戒律は薄い。葬式仏教と呼ばれるように、葬儀は仏式、結婚はキリスト教方式で、盆暮れ正月は神道的価値観が支配している。宗教的戒律が極めて薄い日本社会で、他宗教が混在してもそれを危機と捉える日本人は少ないだろう。そもそも日本人はキリスト教のカトリックとプロテスタントの区別もついていない。イスラームのシーア派とスンナ派の区別も全くつかない。宗教に「(無知がゆえに)寛容」な日本人の道徳観・生活スタイルからすれば、欧州よりもはるかにその摩擦は少ないと言える。

日本の保守派は何かというと「移民社会になると日本の伝統文化が破壊される」という。しかし私からすればそれは戯言で、日本の保守派自らをして「日本の伝統」という日本歴史の根本を学習していない。300年前、1721年の時の徳川将軍は誰だったのかということを正確に答えられる保守派に出会ったためしがない。彼らの言う「日本の伝統」というのは明治以降、とりわけ1930年代中盤から始まる戦時統制下で形成された異形の日本観過ぎない。神社の神主や、寺社の坊さんが外国出身者であっても、それに抵抗を持つ日本人はどれだけいるだろうか。日本の歴史に無知なのはほかならぬ日本の保守派であって、寧ろ日本研究に熱心なのは外国の研究者だったりする。皮肉にもこのような逆転現象は至る所で見られる。

日本は移民大国だった

かつて日本は移民大国であった。大和王権の形成前後、日本列島には数世紀にわたって数百万人単位の大量の渡来人が押し寄せた。朝鮮半島で日本の友邦であった百済が滅亡するといよいよその勢いは加速した。彼らは日本に定住し、天皇から官職を貰うものもいれば職工集団として生きる道を選んだ者もいる。半島のみならず、北方民族から列島に移民する人間たちが多数いた。日本人とは何かと問えば、それは環太平洋そして環日本海にまたがった多種多様な人種からなる移民国家だというほかない。それを忘れ、「日本は単一民族である」などという嘘の戯言が頻出する。そういった嘘は打破しなければならない。

出生率向上に躍起となっている政府は、根本をはき違えている。確かに保育園の拡充や高等教育の無償化政策などは出生率向上にいくばくかの推進剤となるであろう。しかし最も重要なのは人口増加に直接結びつく移民への門戸開放だ。技能実習生というあやふやな立場に置かれた彼らの人権状況を憂うのなら、「将来に亘って家族と帯同して日本に定住する(将来的に帰化する)」移民として正式に位置づけるべきだ。移民無くば日本は滅びる。移民を受け入れ、社会のなかに異質な存在が普遍に存在する社会こそが多様性社会への一里塚だ。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

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