コラム

日本の民主主義は機能しているか、2021年東京五輪のレガシーは何か

2020年05月11日(月)16時45分

来年7月、新国立競技場で無事に開幕できるか ISSEI KATO-REUTERS

<経済効果でもイデオロギーでもない、コロナ後の日本に必要な「遺産」を考える。本誌「ポストコロナを生き抜く 日本への提言」特集より>

東京オリンピックは2021年7月23日開幕となった。15カ月も先なだけに、実感が全く湧かない。新国立競技場を設計した建築家の隈研吾さんは、3月下旬、私にこう語った。「ポストコロナの1つの象徴として、(競技場が)持続可能な現代社会を示唆する建物になればうれしい」

2020050512issue_cover_200.png五輪の「レガシー」という言葉が度々話題になってきた。何のための五輪なのか。何をもたらす大会なのか。1964年の東京五輪のように、五輪が街の形を変え、都市計画に拍車を掛ける時代は終わった。そのモデルに基づいた最後の五輪はおそらく1992年のバルセロナだ。以降はずっと、大企業や政府などごく少数にしか利益をもたらしていない。

経済効果がなくても、国全体に自信が付くからいい! という説もあるが、これも未知の部分が多い。そのつもりで開催されたアテネやリオデジャネイロの大会は失敗だった。停滞している国が五輪によってはい上がる希望はほとんどない。

無形のレガシーとして、イデオロギーを浸透させる役割は五輪にあるだろうか。東京五輪の準備段階から掲げられてきた「ダイバーシティ」の実現は私はまだ早いと感じる。昨年の流行語大賞になったラグビーワールドカップ(W杯)の「ワンチーム」は美しい概念だが、1998年サッカーW杯で同じ理想を掲げたフランスはすぐに厳しい現実に呼び戻された。奇麗事は政策の代わりにならない。

一方、「環境にやさしい都市」もうたわれているが、東京はエコな街に全く見えない。最近谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』を読み返したが、彼がその中で批判していた近代日本のエネルギーの浪費は現代日本ではさらに悪化している。日本はアメリカとフランスに並ぶ、環境破壊の3大問題児だ。3.11後に自主停電や節電をしたときの気持ち、これからなるべくプラスチックを使わないという決意は一体どこに行ったのだろうか。

民主主義は機能しているのか

ロックダウン(都市封鎖)しないまま新型コロナウイルス危機が過ぎ、五輪が来年無事に開催されるとしよう。「やはりニッポンは素晴らしい国だ」という扇動的な論調が想像できる。だがコロナ対応でも、フランス検察の捜査が続く五輪招致の汚職疑惑でも透明性に欠けている日本の政府や大企業に国民は納得するだろうか。日本の政財界は規律ある国民に救われているだけで、民主主義が機能しているとはとても思えない。

プロフィール

フローラン・ダバディ

1974年、パリ生まれ。1998年、映画雑誌『プレミア』の編集者として来日。'99~'02年、サッカー日本代表トゥルシエ監督の通訳兼アシスタントを務める。現在はスポーツキャスターやフランス文化イベントの制作に関わる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 8
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 9
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 10
    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story