コラム

日本の宇宙開発にとって2024年は「実り多き一年」 イプシロンSロケット燃焼実験失敗とロケット開発の行方は?

2024年12月16日(月)12時00分

5日の会見で井元氏は「画像などの解析から、燃焼ガスが吹き出し口以外の部分からも漏れていたことが分かった」と説明しました。ただし、爆発の原因になったかどうかは不明とのことです。また、昨年7月の試験の爆発原因と特定された点火装置の溶融は、今回は起こっていないことが確認されたと言います。

現在は、爆発後に陸上に散らばった破片を回収し、点火装置などの分析が進んでします。また、試験中の画像と、推力、燃焼圧力、各部の温度・歪み・加速度など約200項目にわたる測定事項のデータ解析も進んでいます。今後は点火装置の内部の詳細な検査を進めるのに加え、ダイバーによって海中に飛散した破片を回収して分析することも予定されているとのことです。

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左からイプシロンロケットプロジェクトチームの井元隆行プロジェクトマネージャ、原因調査チーム長を務めるJAXAの岡田匡史理事/宇宙輸送技術部門長(12月5日) 筆者撮影

原因調査チーム長を務めるJAXAの岡田匡史理事/宇宙輸送技術部門長は「今年度は現実的に不可能と考えている」と述べ、3月末までの4カ月弱の期間で燃焼試験失敗の原因を特定し、壊れた地上設備の復旧をして3回目の燃焼試験を成功させた上で、ロケットのエンジンを製造して打ち上げるのは難しいとの見解を示しました。

信頼性の回復が必須

近年は人工衛星の技術革新が急速に進んでいます。1辺10センチの立方体を1~3個並べた程度の大きさで重量も1~4キロくらいの超小型衛星や、超小型衛星を連携させて一体的に運用する「衛星コンステレーション」の運用は、ますます盛んになっています。低コストかつ短い準備期間で多頻度の打ち上げが可能なイプシロンロケットは、そういった需要にも対応できる手段として開発されてきました。

「イプシロンS」の初号機にはベトナムの地球観測衛星が搭載される予定でした。しかし、打ち上げ前の燃焼試験で2回続けて爆発が発生したことで未定となりました。今後は、機体と設備の物理的な回復とともに、日本のロケットに対する信頼性の回復が必須であり、打ち上げ計画や衛星打ち上げビジネスへの影響も避けられない見通しです。

今回の爆発を受け、林芳正官房長官は「基幹ロケットの開発は、わが国の宇宙開発の自立性などの観点から極めて重要であり、今後、JAXAで原因の調査と対応策の検討をしっかりと実施していくものと承知している」と語っています。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師。東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第 24 回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)など。

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