コラム

犬との生活が人の死亡リスクを抑制する...ほか、2024年に発表された動物にまつわる最新研究5選

2024年12月30日(月)17時45分

さらに、尿中のにおい成分を詳細に分析すると、フェリニンから生成される揮発性の硫黄化合物も腎臓病が進行したネコでは減少していることが分かりました。これにより、腎臓病が進行したネコの尿のにおいが弱くなる理由が解明されました。

腎臓病が進行すると、腎臓の濃縮機能が低下し、薄い尿が排泄されるようになります。本研究では、尿のクサい臭いの低減は尿が健康な時よりも希釈されていることだけが原因ではなく、ネコ特有の尿臭成分の生成量自体が低下することが主因であることを初めて示しました。

この成果から、飼い主がトイレ掃除の際に「尿臭が以前より弱くなった」といった変化に気づくことで、腎臓病のリスクを早期に察知できる可能性が示されました。日頃から「猫のトイレの臭い」に注意していると、獣医師の診察を受けるきっかけが分かり、ネコの健康維持に大きく貢献できるかもしれません。

「透明金魚」のさらなる透明化に成功

静岡大学創造科学技術大学院バイオサイエンス専攻の徳元俊伸教授らの研究チームは、17年に開発した「透明金魚」をさらに透明化することに成功しました。研究成果は魚類専門誌「Fish Physiology and Biochemistry」に5月31日付で掲載されました。

透明な動物では、生きたままの状態で臓器などの体内組織を観察することができます。徳本教授らは17年、DNAの塩基を一つだけ変化させる化学変異源物質「エチルニトロソウレア(ENU)」を和金に作用させることで、突然変異で銀色の色素が形成できなくなり透明に変化した金魚を選別交配し、「透明金魚」の作出に成功しました。

ただし、17年版透明金魚は、稚魚のうちは完全に透明で体内の様子が観察できますが、成長に伴って白色素が現れるため、成魚になると体全体が半透明になりました。そこで今回、研究チームは、メダカの研究で解明された白色素細胞の形成に必要な「pax7遺伝子」をゲノム編集技術で破壊したら透明金魚をより透明にできるのではないかと考えました。

ところが、透明金魚の卵は通常の卵より柔らかくゲノム編集の溶液を注入することが困難でした。そこで、和金のメスと透明金魚のオスを交配させた受精卵でゲノム編集を行い、変異導入が確認された魚を透明金魚と交配することを繰り返すことで、pax7ゲノム編集透明金魚系統を作出しました。その結果、白色素細胞が形成されず、成魚でもより透明な金魚が生み出されました。

24年版透明金魚は、初期発生の過程や、卵巣や精巣の観察が可能であることから、生殖生物学分野の研究に有用であると期待されます。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師。東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第 24 回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)など。

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