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「ベートーベン鉛中毒説」がより精密に根拠付けられる 「梅毒にかかっていた」疑惑についても進展あり?
サンプルが偽物だったことからすっかり分が悪くなった鉛中毒説ですが、今回のハーバード大の研究では、ケンブリッジ大チームが遺伝子解析でベートーベンのものと結論付けた2種の毛髪をサンプルとして用いました。
1つは「ハルムとセイヤーの房(0.0284グラム)」と呼ばれるもので、ベートーベン自身が1826年4月にピアニストのアントン・ハルムに手渡し、後に伝記作家のアレクサンダー・ウィーロック・セイヤーに渡ったものです。もう1つは「ベルマンの房(0.0413グラム)」で、1820年後半から27年3月の間に切られたと推定されます。
研究者たちは、2房の髪の外部汚染を取り除くため洗剤で洗い、乾燥させてから2種の誘導結合プラズマ質量分析を行いました。その結果、ハルムとセイヤーの房では1グラムあたり380マイクログラムと369マイクログラム、ベルマンの房では1グラムあたり258 マイクログラムと254マイクログラムの鉛が検出されました。これは、通常範囲の上限(1グラムあたり4マイクログラム以下)のそれぞれ約95倍と約64倍に当たりました。
高濃度の重金属が毛髪に蓄積された理由
また、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)が提案する毛髪鉛濃度から血中鉛濃度への変換式を使用すると、ベートーベンの血中鉛濃度は1デシリットル当たり69~71マイクログラムと推定されました。研究チームによると、このレベルの血中鉛濃度は一般的に胃腸障害や腎疾患、聴力低下と関連しますが、死亡の唯一の原因となる程度ではないと言います。
さらに、ベートーベンには梅毒にかかっていた疑惑がありますが、これまでは根拠が見つかりませんでした。ところが今回の研究では、2組の毛髪の両方からヒ素と水銀も検出され、通常範囲 (1グラム当たり1マイクログラム以下) と比べて、ヒ素は約13倍、水銀は約4倍と高濃度でした。水銀は梅毒の治療に使われるため、今後の研究次第では証拠の1つになるかもしれません。
毛髪になぜ高濃度の重金属が蓄積されたかについて、リファイ博士は①ワインの味付けに用いられていた、②当時、ドナウ川には産業廃液が流れ込んでいたが、そこで捕れた魚が消費されていた、③医療行為(晩年のベートーベンは金属機器を使って腹水を頻繁に抜いてもらっていた)などが考えられると語っています。
難聴や人格変化に苦しみながら「遺書」を記し、死後に原因を解明してほしいと切に願いつつ、その後25年間も美しい音楽を作り続けたベートーベン。200年後の科学技術で検証され、後世の人々が真相を理解すれば、きっと魂が慰められるでしょう。
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