コラム

世界初、月面「ピンポイント着陸」に成功のJAXA...着陸6日目の成果と知っておきたい「10のトリビア」

2024年01月26日(金)21時05分

9)着陸直後とは異なる笑顔の記者会見 プロジェクト責任者と宇宙研所長の採点は?

1月25日の記者会見では、1月20日の着陸直後では分からなかった成果が続々と明かされました。「プロジェクトの成果に点数を付けると?」という質問に、坂井教授は「ピンポイント着陸には300点とか500点を付けたい」と答え、「例えが悪いが、飛行機で言えば小型の双発機がエンジンを1本失った状態でなんとか着陸に至ったようなもの。その状態から無事に着地してくれたSLIMに審査員特別賞を与えたい」と熱を込めました。

一方、着陸直後の20日には「ギリギリ合格の60点」と評していた宇宙研の國中均所長は、「60点に、『LEV-1放出成功』『LEV-2放出成功』『マルチバンドカメラが正常に動作』を各1点ずつ加点して63点」と辛口評価を継続しつつ、穏やかに語りました。

10)今後の課題は?

SLIMの着陸時に異常が発生したことに関連して、國中所長は「最後が本当に惜しかった」と悔しそうに語り、「宇宙研の500Nスラスター(推進器)は良い成果が出ていない」と訴えました。

SLIMはメインエンジンに500Nスラスターを2基搭載していましたが、片方の推力が失われました。同スラスターは、これまでに火星探査機「のぞみ」、金星探査機「あかつき」にも使用されましたが、いずれもトラブルが発生しています。

國中所長は「宇宙探査に用いる場合は、燃料を入れてから点火するまで半年後とか1年後といったスパンで、宇宙での待機状態が長いことが影響している可能性がある」と語ります。日本が主導し、26年の打ち上げを目指している国際火星衛星探査プロジェクト「MMX」(Martian Moons eXploration)」でも6基の使用が予定されているため、「スラスターの信頼性を高める必要がある」と力を込めます。

MMXでは火星の衛星「フォボス」に着陸し、サンプルを地球に持ち帰る計画です。火星とその衛星の関係は、地球と月の関係のように「巨大衝突説」「捕獲説」があり、火星の起源に迫る研究が期待されています。

◇ ◇ ◇

さて、皆さんは日本初の月面着陸に何点を付けるでしょうか。

坂井教授は今回の月面着陸について、様々なトラブルを切り抜けて成功したことを強調し、「非科学的かもしれないけれど、皆さんの応援があったから成功したと思う」と語っています。日本では、2月にも大きな宇宙開発イベントが控えています。初号機の打ち上げに失敗したH3ロケットの、2号機の打ち上げです。次の機会も、私たちの応援が成功への推進力となってくれれば良いですね。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師。東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第 24 回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米バークシャー、24年は3年連続最高益 日本の商社

ワールド

トランプ氏、中国による戦略分野への投資を制限 CF

ワールド

ウクライナ資源譲渡、合意近い 援助分回収する=トラ

ビジネス

ECB預金金利、夏までに2%へ引き下げも=仏中銀総
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story