コラム

日本でも緊急避妊薬が薬局で買えるようになる? 試験販売決定の意義と問題点

2023年07月04日(火)18時05分

経口避妊薬の効果は、低用量ピルが排卵、精子の子宮内侵入、受精卵の着床を抑制するのに対して、緊急避妊薬は排卵の抑制あるいは遅延させることで受精を防ぐことに限定されると考えられています。なので、緊急避妊薬を排卵後に服用しても、避妊効果はありません。

欧米と比べて、日本では低用量ピルも緊急避妊薬も普及していない理由は、①受診して医師の処方箋をもらう必要があるため精神的な障壁が高く、しかも避妊目的の場合は保険外となり薬価が高いこと、②教育の現場では、ピルの使い方などの詳細な避妊法が伝えられていないこと、③日本では従来、コンドームの装着や膣外射精などの男性主体の避妊法に偏っていることなどが考えられます。

パブリックコメントで約98%が賛成

緊急避妊薬のスイッチOTC化については、17年に厚労省の「医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議(以下、評価検討会議)」で議論されたものの、専門家から「悪用される恐れがある」「現場の薬剤師の知識不足」などの意見が出たことから時期尚早と判断されました。

しかし、WHOは18年に「意図しない妊娠のリスクに直面するすべての女性と少女は緊急避妊の手段にアクセスする権利がある」と宣言し、20年4月には薬局での販売の検討もするようにと各国に提言しました。そこで、日本も国際的な時流に乗るために20年12月の「男女共同参画基本計画」に「処方箋がなくても緊急避妊薬が購入できるよう検討する」と明記し、厚労省は21年からOTC化に向けて再検討を始めました。

以後、評価検討会議では2年間で7回議論し、22年末から23年1月にかけては「緊急避妊薬のスイッチOTC化」に関するパブリックコメントも実施されました。寄せられた意見は4万6312件で、賛成は約98%でした。

試験販売できる薬局の4つの条件

今回の緊急避妊薬の試験的な販売の決定は、パブリックコメントに後押しされ、厚労省はアクションを起こさなければならなくなったとも言えます。医師の処方箋がなくても薬局で適正に販売できるかを検証する調査は夏頃から始め、24年3月末までを予定しています。緊急避妊薬の普及に向けて一歩踏み出したように見えますが、問題は残っています。

まず、試験販売できるのは、緊急避妊薬の調剤実績がある薬局を中心に、以下の4つの要件を満たさなければならないとされています。

①オンライン診療に基づく緊急避妊薬の調剤の研修を修了した薬剤師が販売する
②夜間及び土日祝日の対応が可能
③プライバシー確保が可能な販売施設(個室等)がある
④近隣の産婦人科医、ワンストップ支援センターとの連携体制を構築できる

全国には6万軒以上の薬局がありますが、これらの条件が厳しいため、参加は最大でも335カ所にしかならない見込みです。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師。東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第 24 回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)など。

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