コラム

「カルタヘナ法」違反で初逮捕 遺伝子改変メダカとメダカブームの道のり

2023年03月14日(火)12時30分
 メダカ

2000年代前半に品種改良が盛んになり、07年の「幹之(みゆき)」の登場で高級メダカブームに(写真はイメージです) Koichi Yoshii-iStock

<高値で販売されていた「赤く光るメダカ」はどのようにして市場に現れたのか。品種改良の歴史と高級メダカブーム、野に放つ危険性とともに紹介する>

赤く発光するように遺伝子を組み換えたメダカを未承認で飼育、販売したなどとして、警視庁生活環境課は8日、カルタヘナ法違反容疑で60~72歳の男5人を逮捕したと発表しました。2004年に施行された同法違反での逮捕は、全国初のことです。

カルタヘナ法は「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」の通称で、00年に採択された生物多様性条約「カルタヘナ議定書」を日本で実施するために立法されました。研究室などの閉鎖された場所以外で遺伝子組換え生物を扱う場合は、生態系への影響がないことを証明し、主務大臣(環境大臣ら)の承認を得ることなどを義務付けています。

同日、環境省は、①昨年3月に遺伝子組換えの疑いのあるメダカが都内イベントで販売されていたと通報を受けたこと、②6~10月に行われた警視庁の捜査に同席し、使用者に口頭で指導したこと、③本日、警視庁からカルタヘナ法違反検挙についての情報提供があったことなどを発表し、関係各所に再発防止のための周知依頼を行いました。また、遺伝子組換えが疑われるメダカを飼育している場合は、絶対に河川等に放すことなく、近くの環境省地方環境事務所まで相談してほしいとホームページで呼びかけています。

本来いないはずの遺伝子改変メダカは、なぜ市場に現れ、全国初の罪に問われたのでしょうか。事件とメダカブームについて概観してみましょう。

紫外線を当てると赤く光る、天然にいない品種

警視庁によると、5人はいずれも愛好家で、21年7月~22年8月に承認を得ずに遺伝子改変メダカ合計約70匹を飼育したり、販売目的で運んだりした容疑がかけられています。うち1人は、22年7月頃に警視庁が捜査していることを知って、約20匹を千葉県九十九里町の自宅近くの用水路に廃棄したと供述しています。同課などが用水路を調査しましたが、今のところ生態系への影響は確認されていないそうです

5人はいずれも容疑を認めているといいます。

今回の遺伝子改変メダカは、人工的に導入された蛍光タンパク質を全身に発現しており、紫外線を当てると赤く光る、天然にはいない品種です。東京工業大の基礎生物学研究所が、日本在来種のミナミメダカ(学名Oryzias latipes)にloxP 遺伝子(バクテリオファージ P1 由来)、蛍光タンパク質 DsRed 遺伝子(イソギンチャクモドキ珊瑚由来)、蛍光タンパク質 GFP 遺伝子(オワンクラゲ由来)、転写調節配列(SV40 ウイルス由来)を与えて作成しました。もともとはメダカのヒレなどの再生を研究する目的で遺伝子を組み込んだもので、09年3月に正式な手続きを踏んで同大淡水魚飼育室が譲り受けました。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師。東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第 24 回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米ブラックストーン、トランプ大統領の通商政策支持

ワールド

30日間停戦、より広範な和平計画策定を可能に=ウク

ビジネス

カナダが報復関税、298億カナダドル相当の米輸入品

ビジネス

カナダ中銀0.25%利下げ、トランプ関税で「新たな
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
2025年3月18日号(3/11発売)

3Dマッピング、レーダー探査......新しい技術が人類の深部を見せてくれる時代が来た

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦している市場」とは
  • 2
    白米のほうが玄米よりも健康的だった...「毒素」と「腸の不調」の原因とは?
  • 3
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は中国、2位はメキシコ、意外な3位は?
  • 4
    株価下落、政権幹部不和......いきなり吹き始めたト…
  • 5
    【クイズ】ウランよりも安全...次世代原子炉に期待の…
  • 6
    トランプ第2期政権は支離滅裂で同盟国に無礼で中国の…
  • 7
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎…
  • 8
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 9
    SF映画みたいだけど「大迷惑」...スペースXの宇宙船…
  • 10
    「トランプの資産も安全ではない」トランプが所有す…
  • 1
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 2
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦している市場」とは
  • 3
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は中国、2位はメキシコ、意外な3位は?
  • 4
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 5
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 6
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 7
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 8
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 9
    白米のほうが玄米よりも健康的だった...「毒素」と「…
  • 10
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story