コラム

コロナワクチンと同じmRNA技術を用いたインフルエンザワクチンが開発される

2022年12月06日(火)11時20分
mRNAワクチン

新型コロナで一躍有名になったmRNAワクチン(写真はイメージです) kemalbas-iStock

<米ペンシルベニア大などの研究グループが、mRNA技術を駆使した新しいワクチンを開発。20種のインフルエンザウイルスに対応しているという。mRNAワクチンは「従来型」とどう違うのか。最大の利点は?>

毎年、冬に流行する季節性インフルエンザは、感染力が強く、予防にワクチンが広く用いられています。けれど、ワクチンの効果には「当たりはずれ」があることが知られています。

インフルエンザワクチンの接種時期は毎年10月から2月頃ですが、日本で次の冬に流行するタイプを予想して、多様なヒトインフルエンザウイルスの中から4種のワクチン採用株を決定するのは4月から6月頃であるためです。

ワクチンとは異なったタイプのインフルエンザウイルスが流行した場合、ワクチンの効果は「まったくなし」から「薄れるが、ある程度は見込まれる」まで、研究者や医師によって意見は分かれています。けれど、期待されていた効果が十分に得られないことは間違いありません。

米ペンシルベニア大などの研究グループは、新型コロナウイルスワクチンと同じmRNA技術を用いた新しいインフルエンザワクチンを開発したと発表しました。20種のインフルエンザウイルスに対応しているため、「はずれがないワクチン」として期待されます。研究成果は米科学総合誌「Science」11月24日号に掲載されました。

厚生労働省は、季節性インフルエンザと新型コロナ感染症が同時流行すると発熱外来にかかりにくくなることなどを警戒し、2022-23シーズンの冬に向けてインフルエンザワクチンの接種を推奨しています。

「型が違うと意味がないからワクチンは打たない」と考える人も多い季節性インフルエンザですが、ワクチン決定の段取りなどをおさらいしながら、mRNAワクチンの意義について考えてみましょう。

インフルエンザワクチン製造の4ステップ

季節性インフルエンザは、A型インフルエンザウイルスとB型インフルエンザウイルスによって引き起こされます。A型はとりわけウイルスの亜型(サブタイプ)が多く、感染力が強く、症状も重篤になる傾向があります。

ウイルス感染後、数日で38℃以上の高熱や頭痛に続いて、咳や喉の痛みなどの呼吸器症状が現れます。もっとも、高齢者や呼吸器系の基礎疾患を持っているとリスクは高まりますが、多くの人がある程度の免疫を持っていることもあって、致死率は0.1%と決して高くはありません。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師。東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第 24 回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ポーランド、米と約20億ドル相当の防空協定を締結へ

ワールド

トランプ・メディア、「NYSEテキサス」上場を計画

ビジネス

独CPI、3月速報は+2.3% 伸び鈍化で追加利下

ワールド

ロシア、米との協力継続 週内の首脳電話会談の予定な
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 10
    「関税ショック」で米経済にスタグフレーションの兆…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story