コラム

昆虫も痛みを感じている? 「苦痛」から考える人と動物の関係

2022年07月26日(火)11時30分

昨年11月、イギリス政府は、タコやイカ、カニ、エビ、ロブスターなどの頭足類および十脚目(甲殻類)を動物福祉法の保護対象に追加しました。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス・アンド・ポリティカルサイエンス(LSE)が300件以上の科学論文を精査した結果、これらは「痛みを感じる動物」と結論付けられたからです。

保護の具体例として、生きたまま茹でたり四肢を切断したりする調理は行わない、訓練を受けていない取引会社には販売しない、輸送時に最善を尽くすなどを推奨しています。もっとも漁業関係者からは、「行き過ぎた動物福祉だ」「ロブスターに対して人のような扱いをして『苦痛』を考慮するなんて気味が悪い」という声も上がっているようです。

動物の苦痛を突き詰めると、アニマル・ライツ(動物の権利)に行き着きます。すべての動物に対して「動物には、人間から搾取されたり苦痛を与えられたりせず、動物本来の性質に反することなく生きる権利がある」という考え方です。人が動物を利用するのは悪でしょうか。伴侶動物を飼うことすら、人が動物の可愛らしさを搾取するエゴと考える「過激派」もいます。「動物が感じる痛み」に関する数々の話題は、人と動物の共生についてより深く考えるきっかけになりそうです。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師。東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第 24 回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)など。

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