コラム

国内唯一の地質時代名「チバニアン」の成り立ちと意義

2022年05月31日(火)11時30分
ゴールデンスパイクが設置された「千葉セクション」

命名のきっかけとなり、ゴールデンスパイクが設置された「千葉セクション」(市原市田淵) jkunami-iStock

<ゴールデンスパイクが打ち込まれるのは、地質時代の境界および層序を地球上で最も観察・研究しやすい1カ所のみ。市原市にある地層「千葉セクション」がその場所に選ばれた。なぜ房総半島だったのか>

46億年の地球の歴史を、誕生から現在まで117に分けた「地質時代」。2020年1月には日本の地名が初めて採用されて「チバニアン(千葉時代)」と命名されました。

21日には、きっかけとなった千葉県養老渓谷にある地層「千葉セクション」(市原市田淵)に、「国際標準模式地」(GSSP)と認定されたことを示す円形のプレート「ゴールデンスパイク」が設置され、国際的に重要な地層であることが改めて確認されました。

世界各地には、短い間で形態が変わった生物の化石など、時代の境目となる情報が多く残っている地層があります。これらが見つかると、観察しやすい土地の名前に因んで地質時代の名称を決めてきました。

マンモスやネアンデルタール人の時代

時代区分の定義や名称は絶えず見直されています。国際地質科学連合(IUGS)、国際第四紀学連合(INQUA)、国際層序委員会(ICS)等で検討され、4年ごとに開催される万国地質学会議(International Geological Congress)で批准されます。

「千葉セクション」は、約77万年前に地球の磁場(N極とS極)が最後に逆転した痕跡が残っている地層です。

「チバニアン」の命名前は、磁場が反転する前の時代「カラブリアン」との境目が最も観察しやすい場所として、千葉セクションとともに、イタリア・バジリカータ州マテーラ県の「モンタルバーノ・イオーニコセクション」、イタリア・カラブリア州クロトーネ県サン・マウロ・マルケザートの「ヴァレ・デ・マンケセクション」の計3カ所の地層が国際標準模式地の候補に上がっていました。

国際標準模式地とは、国際地質科学連合(IUGS)が地質学上の世界的な基準地として認めた模式地です。地質時代の境界および層序を地球上で最も観察・研究しやすい1カ所のみが認定され、ゴールデンスパイクが打ち込まれます。

国際地質科学連合(IUGS)は2020年、最も観察しやすい場所として千葉セクションを選び、「77万4000年~12万9000年前の『新生代第四紀中期更新世』」を「チバニアン」と命名しました。

ちなみに、「チバニアン」とはラテン語で「千葉時代」を意味します。生物でいうと、マンモスやネアンデルタール人がいて、チバニアン後期の約30万年前には現生人類の祖先であるホモ・サピエンスが登場する時代です。

ところで、地質年代表を見ると、新生代新第三紀中新世の2303万年前〜2044万年前の時代に「アキタニアン」があることに気付く人もいるでしょう。こちらは残念ながら、秋田県ではなくフランスのアキテーヌ地方から名付けられています。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師。東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第 24 回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ空軍が発表 初の実

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数

ビジネス

米国は以前よりインフレに脆弱=リッチモンド連銀総裁

ビジネス

大手IT企業のデジタル決済サービス監督へ、米当局が
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家、9時〜23時勤務を当然と語り批判殺到
  • 4
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    クリミアでロシア黒海艦隊の司令官が「爆殺」、運転…
  • 8
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 9
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 10
    70代は「老いと闘う時期」、80代は「老いを受け入れ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story