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ヒトゲノム完全解読、「究極の個人情報」にアクセスできる時代に起こり得ること
ヒトの遺伝子は、2万1000~2000個程度と推定されている(写真はイメージです) Svisio-iStock
<「ヒトゲノム解析計画」の終了から約20年経過し、ついに完全解読に成功。生物学や医学への寄与が期待される一方、遺伝情報がもたらす差別など人権上の問題への対策も議論される必要がある>
ヒトの全遺伝子情報(ヒトゲノム)が初めて完全解読できたと、米国立ヒトゲノム研究所(NHGRI)などから成る研究チームが1日付の米科学誌サイエンスに発表しました。
ヒトゲノムの完全解析は、米遺伝学者のフランシス・コリンズの主導により,アメリカのエネルギー省と国立衛生研究所の協賛を得て 1990年からヒトゲノム解析計画(Human Genome Project)が始まったことが発端です。この計画には米英日仏独中の6カ国が参加し、2003年4月に解読は完了しました。
けれど、当時の技術では解読困難な部分があったため解析は完璧とは言えず、全長の15%が欠けていました。研究者たちが2013年から参照配列として用いている最新のヒトゲノム配列でさえ、8%が未読のままで残っていました。
解読困難だった「ジャンクDNA」の正体
ゲノム(genome)は、遺伝子(gene)と染色体(chromosome)、あるいは遺伝子と全体を示す接尾語(-ome)を組み合わせた造語で、遺伝情報の全体、つまり「生命の設計図」という意味です。
ヒトの体は約60兆個の細胞でできています。特定の細胞(精子、卵子、赤血球など)を除けば、すべての細胞の核には23対46本の染色体が含まれています。23番目は性別を決める染色体です。染色体にはDNAが折りたたまれて収納されていて、その中には遺伝子が含まれています。遺伝子とは、DNAのうちタンパク質をつくるための情報が記録されている部分のことです。
ヒトゲノムの構成を見てみると、DNAはアデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)の4種類の塩基で約30億対(二重らせん構造のため全体では60億個)の配列を作っています。そのうち遺伝子は、2万1000~2000個程度と推定されています。
ヒトゲノム計画が始まった30年前には、多くの科学者が「ヒトの遺伝子は10万個以上だろう」と予想していました。けれど、2000年にいち早くゲノムが完全解読されたキイロショウジョウバエの遺伝子は1万4000個程度、マウスは2万2000~3000個程度で、ヒトと大差はありません。今では、ヒトなどの高等生物は、一つの遺伝子から複数のたんぱく質を作ることができるので、遺伝子の数を増やさなくても賄えるからだと考えられています。
これまで塩基配列が解読できなかった8%の部分は、染色体の末端部「テロメア」や中央部「セントロメア」です。以前は機能がわからず「ジャンクDNA(がらくた遺伝子)」に分類されていたこの部分の配列は繰り返しが多く、解読するのは困難でした。
かつて、今回の完全解読チームを率いたことのあるエリック・ランダー氏は、「コンピューターは、塩基配列に対してジグソーパズルを解くように解析する。『ジャンクDNA』の領域は繰り返しが多く、いわばパズルピースの形が似かよっているために、適切な場所にはめ込むのが難しかった」と説明します。
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