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ヒトゲノム完全解読、「究極の個人情報」にアクセスできる時代に起こり得ること
研究チームは完全解読のために、研究者100人以上が参画して染色体を端から端まで一気に解読するプロジェクト「テロメア・トゥ・テロメア(T2T)コンソーシアム」を結成し、最新技術を駆使して残り部分を解読しました。最近のコンピューター処理能力の進歩によって、"1つ1つのパズルのピース"を大きく取ることができるようになったことが成功につながったといいます。
近年になって、テロメアはがん化や老化に重要な役割を果たし、セントロメアは細胞周期の進行に関わっていることが解明されています。さらに今回の解析では、テロメアやセントロメアの部分から「遺伝子」とみられるものが99個見つかりました。この部分は決して「がらくた」ではないという証拠です。
究極の個人情報ゆえに危険も伴う
ヒトゲノムの完全な塩基配列決定について、研究チームは「遺伝性疾患の研究や検査などに利用できて、生物学や医学の進歩に寄与する」と意義を語っています。特定の細胞のがん化のメカニズムや、疾病や耐性の個人差を見出すだけでなく、他の生物のゲノムと比較することで人類の進化の解明にも役立つと期待されています。
さらに、NHGRIのアダム・フィリピー氏は「完全解読によって、誰もが自分の全遺伝情報に簡単にアクセスできるような時代に一歩近づくかもしれない」と語ります。
近年、唾液を民間企業に送るだけでガンや生活習慣病に関するリスクがわかるとうたう簡易的な遺伝子検査が話題となっています。あるいは病院では本格的な遺伝子診断によって、ガンの薬の効きやすさや副作用のリスクを評価する試みが行われつつあります。けれど、たとえ遺伝子変異が見つかっても治療法がない場合も多く、「患者にどのように伝えるべきか」が議論になっています。また、米国ではすでに、遺伝子診断の結果で生命保険の契約を断られたり、就職差別をされたりするという問題も生じています。
日本では、国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)の「ヒトゲノムと人権に関する世界宣言」を踏まえて、2000年6月に科学技術会議生命倫理委員会が「ヒトゲノム研究の基本原則」を取りまとめました。この中には、研究者や医療従事者などが守るべき「個人の遺伝情報保護の厳守」や「試料提供者へのインフォームド・コンセント」「遺伝子に基づく差別の禁止と被害者への補償」などが盛り込まれています。翌2001年には文部科学省・厚生労働省・経済産業省によって「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」が作成され、2013年に全面改正がなされた後も個人情報の匿名化などについて、こまめに見直しがされています。
遺伝情報は究極の個人情報です。誰もが自分の遺伝情報にアクセスできる時代になれば、それだけ情報漏洩や情報窃盗の危険も高まります。科学的な偉業の達成は喜ばしいことですが、保護システムや罰則規定の強化を、先手先手で検討すべきでしょう。
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