コラム

Googleに挑む男から見たAIの今と未来 PerplexityのAravind Srinivas氏

2024年04月09日(火)11時40分
(写真はイメージです) Deemerwha studio-Shutterstock

(写真はイメージです) Deemerwha studio-Shutterstock

<情報検索の方法がこれまでと大きく変わろうとしている>

*エクサウィザーズ AI新聞から転載

「Google相手に戦う!?せいぜい頑張れよ。じゃあな」。米シリコンバレーのAIスタートアップPerplexityのCEO、Aravind Srinivas氏は、自分の事業計画がほとんど誰からも相手にされないのは分かっていた。それでもAI研究者として、この領域に挑戦したい。そう考えた。

AIの進化を受けて、情報検索の方法がこれまでと大きく変わろうとしている。検索エンジンの結果ページに表示されたリンクの中から、自分の問いに関連ありそうなものを順番に当たっていかなくても、ChatGPTに質問をぶつければ答えが直接返ってくる。情報検索の新時代の幕開けだ。


数人で始めたチャット型AIのPerplexityはなかなかの評判で、利用者も急増していた。大きな資金調達をして事業を加速させよう。でもその前にシリコンバレーの有力者たちに相談して回った。ほとんどの人の意見は「そろそろ1つの業界に絞って、その業界専門の情報検索ツールを目指すべき」というものだった。1つの業界に特化すべきか。Googleを敵に回してでも、どんな質問にでも答えることのできるツールを目指すべきか。1つの業界だけを攻めるという垂直の戦略か、すべての業界を攻める水平の戦略か、という選択だ(36:13)。「正直、悩んだ」とSrinivas氏は言う。

そんな中、一人だけ多くの人と真逆のアドバイスをくれた人がいた。史上初ブラウザで一世を風靡したネットスケープの創業者で、著名ベンチャーキャピタリストのMarc Andreessen氏だ。「垂直戦略で行くと失敗は確定だ。水平戦略でも失敗する可能性は高い。でも失敗が確定するわけじゃない」(37:13)とAndreessen氏は語ったという。

Andreessen氏によると、Googleの成功を受けて、業界や領域に特化した検索エンジンが無数に出てきた。しかし特化型検索エンジンはことごとく失敗した。生き残っているのは、コミュニティや使い勝手など、検索エンジン以外の部分を工夫し、価値を作り出したところだと言う。検索対象領域を狭めることで、検索エンジンとしての性能は低下した。他の領域との境界部分の情報をうまく検索できなくなり、結局特化型検索エンジンの利用者が減る結果になったようだ。

自分の情熱はどこにあるのか。注力したい特定の領域があるのか。それとも情報検索に注力したいのか。AIを研究してきたのだから「情報検索の仕事をしたい」。そう思って、Googleという巨人が存在する領域にあえて踏み出したのだと言う。

ChatGPTを開発したOpenAIは、ChatGPTの基盤となる大規模言語モデルの改良に力を入れている。基盤モデルを活用したアプリの1つに過ぎないChatGPTの改良には、それほど興味がないように見える。Googleのようにリンクを表示するだけでもユーザーに優しくないし、かと言ってあらゆる問いに対してすべて文章で答えるのも違う。スポーツの結果や株価などの情報は、文章よりも表やグラフを提示するほうが分かりやすいだろう。「情報提供の最良の方法を日々探し続ける必要があるんだ」(3:07)と同氏は語る。そうすることでGoogle検索やChatGPTよりも、ユーザーにとって使いやすいサービスを作れるのではないか。そう考えた。

ユーザーにとっての価値がすべてなので、自社開発の大規模言語モデルにはこだわらない。今はオープンソースのモデルを改良するなど実験を繰り返す一方で、OpenAIの最新の大規模言語モデルGPT-4や、GPT-4を超えたと話題のAnthropic社の最新大規模言語モデルClaude 3なども早速取り入れている。ユーザーからの問いの理解には、こうした大規模言語モデルを利用し、それ以外のタスクにはオープンソースの中規模モデルを改良したものなどを組み合わせて使っているという。ネット上では大規模言語モデルの開発競争に参加しないので、技術力の劣るAIスタートアップのように揶揄されることがあるが、技術開発競争をするよりも、いいサービスをユーザーに提供したいのだと言う。

以上、Perplexity CEO: Disrupting Google Search with AI(https://www.youtube.com/watch?v=57LqvutrOI8)というインタビュー動画を物語風にまとめました。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story