コラム

ユヴァル・ノア・ハラリ×オードリー・タン対談(1/3)──「ピンクのマスクはカッコいい」、誰もがルールづくりに参画できる社会の到来

2020年07月15日(水)15時25分

ハラリ だからこそ、今日、新しい監視技術の発展を見ていると、最も興味をそそられる事の一つは、私が自分自身を知るよりも、誰かが私の事を知っていたらどうなるのか、という事です。私が10代の頃にFacebookやTikTokなどが存在していたとしたら、私がゲイであることが、私自身がそのことに気づくよりもずっと前にFacebookなどが気づいていたことでしょう。

企業や政府が、私のことを私以上に知っている世界。そんな世界で生きるということは、どういうことを意味するのでしょうか?これは、テクノロジーが政治や社会に与える影響について、私が今日抱いている大きな疑問の一つです。

司会者 オードリー、あなたが自分のセクシャリティについて気づいた経緯を教えてくれませんか?

タン そうですね。まず最初に確認しておきたいのは、台湾は世界でも数少ない、いやおそらく世界で唯一、ゲイ・プライドやトランスジェンダー、LGBTIQの権利を守るための行進を行っている国です。2、3日前、そして昨日も行進が行われました。

台湾は、1年前に婚姻の平等を認めました。アジア初です。これで同性カップルが結婚した場合に、異性カップルと同じ権利と義務を持つようになりました。

私の生まれつきのテストステロン(男性ホルモン)のレベルは、おそらく80歳の男性のレベルしかありませんでした。私が13歳か14歳の時には、平均的な男性の思春期のテストステロンのレベルと平均的な女性の思春期のテストステロンのレベルの間のどこかに位置していたと思います。

インターネットに出会えたことはとても幸運でした。たとえわたしの住んでいる地域に、わたしのような人間がわたし一人だったとしても、世界中の同性愛者やバイセクシャルの人たちから、いろいろ教えてもらうことができたからです。

たとえ自分の住んでいる街には100人に1人、1000人に1人しかいなくても、インターネット上には同性愛者、バイセクシャルのサポートグループがあって、彼らが自分たちの実体験をシェアしてくれたからです。

その後、24歳の時にわたしの第二の思春期である、女性としての思春期が2~3年ありました。そのおかげで、政治家としてすべての異なる人々の意見を理解し、共感できるようになりました。

なぜなら自分の心の中に両方の性を持っているからです。

台湾が結婚の平等を法制化したとき、この法律は世代間の異なる立場を調和させることにもつながることに気づきました。年配の世代の価値観は、家族やグループを大事にすること。一方、若い世代は、より個人主義です。

しかしわれわれは台湾の法体系では、文化を超えた方法で異なる世代の価値観を尊重するように努めています。私はこの国の正式名称を「超文化人民共和国」と訳すことがあります。台湾を、文化を超えた形で1つにすることが、わたしのライフワークでもあります。

司会者 素晴らしい。 ありがとうございます。 オードリー、あなたはユヴァルが言ってるような状況のことを心配していますか? つまりあなたがあなた自身のことを理解する以上にテクノロジーがあなたのことを分かっているという状況です。

タン 私の仕事の大半は、民間セクターが彼らの生産手段を保持することに費やされます。RadicalxChange財団的な言葉で言うと、データ連合やデータ協同組合がデータの生産手段を保持することを保証するということです。

つまり、もし人々が言われるがままの方法でデータを生産し、その結果、監視国家や監視資本主義が可能になるのであれば、ユヴァルが語るシナリオにつながる可能性が十分にあるということです。

しかし、民間セクター、つまり一般市民が彼らのデータが収集されていることを理解すれば、話は違います。例えば、台湾では、コロナウイルスハッカソンの優勝者で、連絡先追跡技術で最先端のLogboard社が、ユーザーの現在地や体温、症状などの個人情報を収集していますが、そうしたデータはどこか転送されることはなく、携帯電話内だけに保存されています。

Logboard社の技術は、医療担当者が接触追跡の調査に来たとき、ユーザーの友人や家族についての詳細な個人情報を漏らすことなく、接触追跡に必要な情報への一度限りのリンクを生成します。従来のような接触追跡の面談のように、不必要な個人情報を医療担当者に話さないとならないわけではありません。これはごく簡単な1つの例に過ぎません。自分のデータを自分で所有、管理できれば、自分の個人情報は、最も親密で信頼できる友人や家族とだけ共有することができるのです。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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