コラム

テクノロジーで瞑想を不要に TransTech Conferenceから

2019年02月12日(火)16時00分

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どこにエネルギーを送るべきかは、瞑想者にMRIヘッドセットをつけて脳内の血流の流れを計測することで分かる。例えば「私はすぐに怒る」「わたしの未来は明るい」など雑念が起こりやすいフレーズを聞かせ、その後、脳内のどの部分に血流が流れたかを計測することで、ターゲットの場所を特定。そこを目指して超音波を照射することで、雑念のメカニズムに影響を与えることが可能になるという。実験の結果、後帯状皮質と呼ばれる部位が雑念の発生に関与していることが判明。実際に超音波を送ることで、雑念を抑え、目の前のタスクに集中できるようになるという。

ただ超音波を長く照射すると細胞に熱を与えてしまう。脳を熱くするのは危険なので、マイクロ秒単位で超音波を当て、2、3分間休憩で脳を冷やすという手法なら、「完全に安全だ」とSanguinetti博士は言う。

著名な瞑想教師のShinzen Young師がこの実験に協力したところ、2週間で「劇的な変化」を感じ「今までの人生の中で最も重要な取り組みだと思う」と語ったという。Sanguinetti博士は「Young師は、何十年もの経験を持つ瞑想の達人。その達人がそう言うことは、非常に大きな意味を持つ」と語っている。

Young師以外にも、瞑想上級者数人に試してもらったところ、全員がその効果に驚いたという。ソフィア大学のMartin教授は「ヘッドセットをつけてわずか数分で深い瞑想状態に入れた。しかも今まで到達したことのないレベルにまで達することができた」と語っている。

Sanguinetti博士は「まだ分からないことが多過ぎるので、こうしたテクノロジーを利用するには、今は専門家のガイダンスの下で行われるべき。また刺激の量もできるだけ少なくして効果を見るべきだ」と言うが、いずれ安全性が確立すれば製品化され、瞑想に興味のあるシリコンバレーの技術者の間で広まるのは間違いないだろう。

こうしたテクノロジーで、多くの人が「欠乏の意識」から「満たされた意識」へと移行することができれば、「欠乏の意識」で構築されている今の経済、政治、社会は、まったく別のものに進化することだろう。AIは今後急速に進化していくことは間違いないが、人類の意識もまた、今大きく進化しようとしているのかもしれない。


プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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