コラム

これが解決されればビジネスが変わる。最新AI研究トレンド7選

2018年08月08日(水)14時36分

iStock:agsandrew

<なぜ「説明可能なAI」の研究が今もっともホットなのか、コピペができなくなるとどうして市場が広がるのか、騙すAIと見破るAIとは何か。わかりやすく解説>

AI新聞からの転載

未来予測として定評のある米Future Today Instituteが出した2018 Tech Trends Reportは、AIビジネスに関する話題が中心になっているのだが、その中でAIの技術的なトレンドにも言及している。僕自身、技術的なことはあまり分からないので、株式会社エクサウィザーズの執行役員で、理化学研究所 革新知能統合研究センター (AIP) 客員研究員でもある遠藤太一郎さんに詳しく教えてもらうことにした。

とりあえずFuture Today Instituteが挙げるAIの技術トレンドの中でも、僕が個人的に気になった7つのトレンドについて、詳しく話を聞いた。

説明可能なAI

──AIって中身がブラックボックスなので、活用できないビジネス領域がある、という話を耳にしたことがあります。具体的にはどういうことですか?

遠藤 例えば、ローンの審査にAIを使うべきかどうか、という問題があります。担当者である人間が判断するのなら、お金を貸せないと判断した場合、なぜ貸せないのかを顧客に説明できます。お金を借りるほうの顧客も、貸してもらえないのなら、なぜ貸してもらえないかを聞いてみたいですよね。

──それはそうですね。

遠藤 でも今のAIにローンの可否を判断してもらうと、可否の判断はできるんだけど、人間が途中の計算式を見ても、なぜAIがその判断を下したのかがまったく分からないんです。

──なるほど。例えば画像認識のディープラーニングの途中の隠れ層と呼ばれる部分のデータを見ても、なぜコンピューターがそういう計算をしているのか人間にはまったく理解できないですものね。でもその画像が何なのか、最終的には正解を弾き出してくるので、まあいいか、ってなる。画像認識ならそれでよくても、ローンの可否なら判断理由を知りたいですよね。

遠藤 なので、「説明可能なAI」って、今もっともホットな研究領域になってるわけです。世界的な人工知能の学会Neural Information Processing Systems (NIPS)などでも話題になってますね。

──どの程度、判断基準を説明できるようになってきているのですか?

遠藤 いや、まだまだって感じです。ただ幾つかおもしろい手法が出て来ています。例えばLIMEと呼ばれる手法などでは、複雑なモデルを線形モデルで説明することができます。線形モデルにすれば、どの項目が効いてAIが答えを出したのか、直感的に理解が可能になります。こうした手法の精度が上がれば、これまでAIの導入に二の足を踏んでいた企業などが、一挙に導入に踏み切る可能性がありますね。

──なるほど、さらにAIの普及に拍車がかかるわけですね。

データ改ざん問題

──データの改ざん問題って、どうしてそんなに重要なんですか?

遠藤 ご存知のように、AIってデータがすべてです。どれだけアルゴリズムが優れていても、間違ったデータを入力すれば、間違った答えが出力される。データが改ざんされれば、すべてが水の泡。改ざんされないデータの保管、送信方法が重要になるわけです。湯川さんもAI新聞で取り上げることが増えているブロックチェーンなどの技術で解決できるかもしれないですね。

──そうですね。これまでのインターネット上のデジタルデータって、コピーも上書きも簡単にできました。なので勝手にコピーされたり書き換えされたら困るようなデータを取り扱うビジネスって、まだまだデジタル化されていないものが多い。もし勝手にデータをコピー、改ざんができないような仕組みができれば、もっと多くのビジネス領域がデジタル化され、AIの進化の恩恵を享受できるようになりそうですね。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story